物質には、温度差がつくと電圧が生じたり、電気が流れると冷えたり温まったりする性質がある。この性質は大小の差はあるものの物質が普遍的に持つ性質で、このような何の人工的な仕組みもなしに物質中で熱現象と電気現象が直接に結びつく現象を総称して熱電現象と呼ぶ。顕著な熱電現象を示す物質は熱電材料と呼ばれ、あらゆる種類の排熱を電気に変換することができ、その逆に電流により冷却したり加熱したりすることができる。本学科では、様々な性質を持つ物質の熱電現象を、様々な環境で調べることにより、優れた熱電材料につながる新たな糸口を探っている。
図2 高温度域までの熱電特性測定のための試料セッティングの様子
物質の熱電現象を利用した熱電変換は、利用しづらい低品質な熱を電気エネルギーとして回収できる唯一の方法である。現在、発電所などで作られる1次エネルギーの約60%が熱として捨てられているが、それらを有用な電気エネルギーとして回収することができたら、どれだけ省エネに貢献できるであろうか。また、様々なものから捨てられる日常の小さな熱を電気エネルギーとして回収して小型電子機器に利用できたら、どんなに便利なことであろうか。
熱電変換は、室温で精密な温度制御を可能とする唯一の方法でもある。現在の光通信の光源となる半導体レーザの性能は温度に敏感である。そこで、ペルチェ素子と呼ばれる熱電変換素子が電流によって冷却したり加熱したりすることができことを利用して、室温で精密な温度制御を行い、その性能を安定させている。言ってみれば、熱電変換は、今日の情報社会の基盤となる光通信を裏から支えているのである。
これらのエネルギー技術、温度制御技術、冷却技術への応用の可能性から、より優れた性能を持つ熱電材料の開発は、物理、化学、工学の分野を幅広く横断する物質科学の最重要テーマの一つになっている。現在でも、国内外の多くの研究者が、多角的な視点、手法によりその研究に取り組んでいる。
現在、その魅力的な応用の可能性にも関わらず、性能が不十分なため、熱電変換は主要なエネルギー技術、冷却技術にはなっていない。熱電変換素子の性能の律速となっているのは、素子を構成する熱電材料の性能が十分でないことにある。さらに、実用に至っている熱電材料は、構成する元素が希少であったり、有毒であったりする。これらの欠点も、大規模な実用を考える上で課題となるだろう。
熱電材料は、熱が加わったとき生じる電圧(熱起電力)が大きいこと、(熱起電力は温度差に比例して生じるため)材料中で温度差がつきやすいこと、そして(電池となるので)電流が流れやすいことが必要とされる。これらの条件を同時に満たすことは難しいため熱電材料となる物質はごく限られており、そのような物質には何らかの変わった特徴が備えられている。本学科では、電子間のクーロン力が顕著な電子材料(強相関電子系物質)に着目して、様々な強相関電子系物質の合成(図1)と多様な環境での熱電特性評価(図2)を行うことにより、新たな優れた熱電材料を探索している。
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