光を当てるだけで液体が固まる「光硬化樹脂」は、3Dプリンターなどにも使われる身近な材料です。実はその中で、目に見えない小さな粒子(ナノ結晶)が自分で動き、並び、模様をつくることをご存じでしょうか。京都工芸繊維大学では、光によって生まれるわずかな環境の違いを利用し、ナノサイズの粒子を自発的に移動・配列させる新しい材料設計の研究が進められています。写真に写る美しいパターンや発光の背景にある、不思議でおもしろい工学の世界をのぞいてみましょう。
銀ナノワイヤーのパターン
ペロブスカイト量子ドットのパターン
ペロブスカイト量子ドット
写真に見える六角形の模様や光る液体は、一見するとアート作品のように見えるかもしれません。しかしこれらは、最先端の工学研究から生まれたものです。
研究室では、「光」を使って材料の中に模様や機能をつくり出す方法を探っています。特に注目しているのが、「ナノ結晶」と呼ばれる非常に小さな粒子です。金属や半導体からできたこの粒子は、電気を流したり、光を出したりする特別な性質を持っています。
通常、こうしたナノ結晶を決まった場所に並べるには、とても細かい加工や複雑な工程が必要です。しかし、もっとシンプルな方法を見つけました。それは「光を当てるだけ」です。
ナノ結晶を樹脂のもとになる液体に混ぜ、そこにパターン状の光を当てると、不思議なことが起こります。光が強く当たった部分では化学反応が速く進み、そうでない部分との間に「濃さの差(濃度のムラ)」が生まれます。このムラがきっかけとなり、ナノ結晶はより安定な場所を目指して自ら動き、自然に並んでいくのです。
つまり、素材を削ったり無理に配置したりするのではなく、「素材自身に動いてもらう」ことで模様をつくっているのです。これは従来のものづくりとは大きく異なる、新しい発想です。
例えば、銀のナノワイヤーを使うと、並んだ部分だけ電気が流れやすくなります。これにより、曲げられるディスプレイや透明な電極といった未来の電子デバイスにつながる可能性があります。また、強く光る性質を持つナノ結晶を使えば、写真のようにカラフルに発光するパターンを直接フィルムの中に描くこともできます。これは、次世代ディスプレイや偽造防止技術への応用が期待されています。
研究では、「なぜナノ結晶が動くのか」「どうすれば思い通りに並べられるのか」といった疑問に取り組んでいます。顕微鏡でその動きを観察しながら、光の当て方や強さを変えて実験を行い、現象のしくみを明らかにしています。
光、化学反応、そしてナノの世界の動きがつながるこの研究は、化学・物理・材料科学が交わる分野です。写真に写る美しい模様の裏には、こうした緻密な工学の工夫が隠されています。
光を当てるだけで、素材が自分で動き、形や機能を生み出す――そんな未来のものづくりに、あなたもワクワクしてみませんか。
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