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化学合成と酵素合成の融合による抗ガン剤の迅速合成

2019年4月12日|東京農工大学 工学部
図1 saframycin A迅速合成 イメージ図1 saframycin A迅速合成 イメージ

多くの薬は植物や微生物が作り出す化合物を基にして設計されています。今日では、薬の多くを「有機合成化学」を駆使して製造しており、一般的に複雑な化合物になるほど多くの手間と時間を必要とします。一方で植物や微生物は、自前の「酵素」を利用して複雑な化合物をいとも簡単に合成しています。この酵素を化学合成に利用できれば、薬となる化合物を格段にたやすく合成できるようになります。今回、酵素合成と化学合成を連携させるアプローチで、複雑な医薬品候補化合物を僅か1日で合成することに成功しました。

図2 抗ガン剤エクテナサイジン743図2 抗ガン剤エクテナサイジン743
図3 酵素イメージ図図3 酵素イメージ図
図4 サフラマイシンAの合成図4 サフラマイシンAの合成

 土壌微生物などから単離されたサフラマイシンAは複雑な五環性骨格を持ち、強力な抗ガン作用を発揮します。同様の骨格を持つエクテナサイジン743が既に抗ガン剤として利用されていることなどから、この骨格を持つ化合物群は以前から注目されています。しかし、骨格が複雑な上に反応性の高い官能基(-OHや-CN)が多数含まれている為、これらの合成法は10-20程度の工程数を必要としていました。

 私たちは、微生物内ではこの骨格がたった一つの酵素によって一気に合成されていることに着目しました。SfmCと名付けられたこの酵素を化学合成と融合できれば、微生物のように短時間でこの化合物群を合成できると考えられます。

 微生物が利用している酵素SfmCを遺伝子組み換え技術を用いて生産しました。取り出した酵素SfmCに対して化学合成した基質(原料)を投与し、複雑な骨格を持つ化合物を1日以内で合成することに成功しました。本来微生物が利用している原料に似せた化合物を用いることで、本来微生物が作らない非天然型の化合物の合成も可能となりました。得られた化合物を化学変換して、わずか6段階でサフラマイシンAを合成することができました。

 本合成法は、官能基の異なる類似化合物群を必要に応じて素早く柔軟に合成できることが最大のメリットです。大量合成が課題ですが、酵素合成と化学合成を連携させ、次世代の医薬品候補分子群を合理的に創出する新手法として更なる発展が期待されます。

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