2020年7月17日
信越・北陸地区
信州大学 繊維学部
私達は、日常生活の中で多くの石油由来のプラスチックを利用しています。ストローや飲料ボトル、食品包装などの廃棄されたプラスチック製品は、環境中で完全に分解しないため、小さな「マイクロプラスチック」となり、環境中に散らばってしまいます。この「マイクロプラスチック」は、海水や砂浜だけでなく、深海や河川、貝や魚の体内でも発見されていて、人間の体内に取り込まれる危険性があります。
最近では、マイクロプラスチックによる環境汚染や地球温暖化を防ぐために、レジ袋が有料化され、エコバックが注目されていますね。ですが、感染症予防対策として、不織布マスクやフェイスシールド、テイクアウト用容器などプラスチックは大量に利用されています。私達に、まったくプラスチックを使用しないで日常生活を過ごすことは可能でしょうか?
地球環境と人間社会の共存・共栄のために、環境循環型・持続可能な高分子材料の開発が進められています。特に、「バイオベースプラスチック」や「生分解性プラスチック」が注目されています。「バイオベースプラスチック」は、生物由来の再生可能な資源(バイオマス)から得られます。「生分解性プラスチック」は、微生物の働きにより最終的に水と二酸化炭素に分解します。つまり、これらのプラスチックは、自然環境や生物にとって優しい材料と言えます。
信州大学繊維学部の田中稔久研究室では、「バイオベースプラスチック」や「生分解性プラスチック」を使って、『環境』と『人体』に対して無害で安全に使用できる繊維素材の開発を進めています。化学・素材メーカーとの共同研究で、生分解性プラスチックを使用して、繊維や編み物などを開発し、材料物性について調べています。具体的には、溶融紡糸から多孔質ファイバー・様々な断面形状のファイバー・編み地の作製、電界紡糸からナノファイバーの作製をおこない、強度・撥水性・保温性・分解性などの特性について分析しています。研究例として、抗菌剤を添加することで、分解しつつ抗菌性を持つような材料が得られています(図1)。また、ファイバーの断面形状や延伸方法を変えることで、編地に風合いや光沢感を付与させることが可能です(図2)。
また、バイオベースプラスチックを使用して、複合フィルム・ナノファイバーの作製、香料含有カプセルの作製をおこない、耐熱性・細胞接着性・耐水性・薬物徐放性などの特性について調べています。研究例として、バイオベースプラスチックに生分解性プラスチックを混合することで、均一なファイバーの形成が可能になり、耐水性・分解性の制御が可能であることが分かっています(図3)。
目標として、生体(人間)に対して適合性を持つ医療用素材(手術用縫合糸・細胞を増殖させるシート・傷を覆うシート)、健康・介護用品(化粧品用パックシート・保温材料・フィルター)、さらに、農林水産・土木・建設用資材(農業用シート・緑化シート)、野外レジャー用品など、様々な応用展開を想定しています。
将来は、生活用品も含め、食品や衛生的な用途において、従来のプラスチックから、環境循環型高分子であるバイオベースや生分解性プラスチックに置き換わることが期待されます。今後、抱えている課題を解決しつつ、製品化へ結び付けることで、海洋プラスチック問題の解決に貢献したいと思っています。
掲載大学 学部 |
信州大学 繊維学部 | 信州大学 繊維学部のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |