金属有機構造体(Metal-organic framework、MOF)と呼ばれる材料は、金属イオンがカルボキシル基(-COOH)などの官能基を複数もつ有機分子と配位結合して構成されています。MOFは金属イオンが節点、有機分子が節点を橋渡しすることで、ナノメートルサイズのジャングルジムのような構造となり、1nm程度のすき間(空隙といいます)の空いた構造をしています。このような空隙の多い材料は多孔質材料あるいはナノ空間材料と呼ばれていて、身近なものだとお菓子の袋に入っているシリカゲルや脱臭剤として用いられる活性炭などがあります。これら多孔質材料は非常に表面積が高く、中でもMOFは1gでサッカーコートと同等7000m2の表面積をもつものも開発されています。MOFの高い表面積や空隙率を利用することで水素やメタン、二酸化炭素などの小分子気体をその空隙に貯蔵することが出来ます。特にカーボンニュートラルのための二酸化炭素の吸着・分離剤としての応用が期待されています。
MOFの研究において、多くの研究者は密閉された容器内で試薬を反応させMOFを得るバッチプロセスと呼ばれるプロセスを用いています。しかしバッチプロセスは長い時間が必要、操作が煩雑、エネルギーコストが高いといった欠点があり、MOFの実用化のためにはより大量生産に向いた連続プロセスへの転換が求められています。連続プロセスとはその名の通り、原料供給、反応、分離回収を連続して行うプロセスであり、24時間365日、同じ製品群をずっと作りつづける石油精製やアンモニア製造などの化学工場では一般的なプロセスです。
MOFの連続合成を行うため、我々は反応場としてミストを選定しました。MOFの原料溶液をスプレーすると微細なミストとなります。このミストを加熱すると、溶媒が蒸発し濃度が上昇します。すると金属イオンと有機分子の結合形成が促進され、数十ミリ秒という非常に短時間でMOFの結晶が合成されます。このプロセスを用いることで、従来法であるバッチプロセスと比較して生産効率を約10倍向上することが出来ました。またミスト中に機能性材料であるナノ粒子を添加することによってナノ粒子を複合したMOFの合成にも成功しました。一例として、磁石に引き寄せられる磁性を有するナノ粒子を複合すると、磁石で集積可能な複合MOFを合成することができます。これによりMOFの空隙に液中の汚染物質を吸着し、その後磁石で簡単に回収することのできる吸着剤としての応用が可能となります。さらにミストを加熱した基板上に堆積させることによってMOFの薄膜の作製も可能です。MOFの薄膜はガス分子のセンサーや異なる大きさのガス分子をふるい分けの様に分離することが可能です。ミストを使うと、短時間で大面積のMOF薄膜を作ることが可能です。
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