コロイド分散液とは、微粒子(コロイド粒子)が液中に分散した液体です。身近な例では、コーヒーや緑茶、牛乳がそれに該当し、私たちの生活の身近にあるものです。
みなさんは、普段何気なく飲んでいるコーヒーやお茶を机などにこぼしたときに、その液滴がリング模様になっていることに気づいたことがありませんか?リングができる現象は、コーヒーに分散するミクロな粒子の挙動と深く関係し、コーヒーリング効果と呼ばれます。では、コーヒー以外のコロイド分散液や、砂糖などの添加物を加えたコーヒーでも同様の現象が観察されるのでしょうか?そこで今回は、身近にあるコロイド分散液の液滴の乾燥挙動を観察し、どのようにリングが形成されるのか実験していきましょう。
紅茶に高濃度の砂糖水を同様に加えてみると、リングの形成が抑制されました。
コロイド分散液の液滴が乾燥に伴い、リングを形成する現象はコーヒーリング効果と呼ばれています[R. D. Deegan et al., Nature 1997, 389, 827]。乾燥時、液滴縁からの蒸発により、マランゴニ対流と呼ばれる縁方向の流れが生じます。この流れに乗ってコロイド粒子が液滴の縁に運ばれて乾燥し、リングを形成すると知られています。
今回の実験では、砂糖水、牛乳、レモン果汁を加えるとリング形成が起きにくくなりました。例えば、砂糖水は液滴縁で固化(析出)することにより、乾燥に伴う液滴内の対流を変化させ、結果、コーヒーリングの形成を抑制することが報告されています[S. F. Shimobayashi et al., Sci. Rep. 2018, 8, 17769]。また、溶液の粘度や基板への濡れやすさ(界面張力)なども、コーヒーリング形成へ影響することが知られております。牛乳に含まれるたんぱく質は、界面活性能(水の界面張力を変化させる特性)を有するため、コーヒーリングを抑制したと推察できます。
このように、コーヒーリング効果という日常の中のちょっとした現象への理解は、私たちの生活をより豊かにするための重要な研究につながります。例えば、この技術を応用したものの一つが、多くの家庭にあるインクジェットプリンターです。
コロイド粒子自身の特徴もまた、乾燥時の模様の制御において重要な役割を担います。筆者たちが開発しているコロイド粒子の中には、水で膨潤し、寒天のように柔らかいハイドロゲル微粒子というものがあります。この微粒子分散液を基板に垂らすと、水滴の表面(気水表面)へゲル微粒子が吸着し、二次元の結晶構造である均一な薄膜を形成することを見出しています[D. Suzuki et al., Langmuir 2018, 34, 4515 など]。ゲル微粒子を等間隔に並べることで、孔雀の羽などにもみられる虹色の構造色を人工的に作製することもできます。この知見を発展させると、インクジェットプリント技術の向上が期待できます。
私たちの肉眼では見えないミクロな世界には、コロイド粒子の不思議な現象が潜んでいます。ふとした日常の中で、液滴中で起きているミクロな現象を観察し、想像してみると面白い発見があるかもしれません。
そう、例えばあなたの近くの机にある乾燥したコーヒーのしみ。リング模様がなければ、それは砂糖がたっぷり入っていたものかもしれません。
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