皆さんの身近に存在し、生活には欠かせない光、この光のエネルギーを使った様々な製品が私達の身の回りにあふれています。最近、よくテレビやラジオで耳にするキーワードとして、「光合成」、「太陽電池」、「光触媒」などがあります。どれも光のエネルギーを使って、物質に化学反応を起こさせて、別の物質に変えたり、別の形でエネルギーを取り出したりしています。その他にも、光のエネルギーによって材料の色を一瞬で変化させることができます。この現象を「フォトクロミズム」といいます。「クロミズム」とは外部刺激によって物質の色が可逆的に変化する現象を意味し、"光"によって引き起こされるクロミズムは、「フォト」クロミズムとよびます。フォトクロミズムの歴史は非常に古く、紀元前の時代までさかのぼり、学術的に報告されたのは1860年代になります。ここ数年で、フォトクロミズムを示す様々な有機化合物が開発され、調光材料(サングラスや窓ガラス)、化粧品、印刷インク、玩具、接着剤などにも使われ始めています。さらに光エネルギーを運動エネルギーに変換する新たな概念を追究する研究も行われており、分子マシンや光運動材料としての応用展開が期待できます。
フォトクロミズムは、2つの異性体が光によって可逆的に結合の組み替えを起こし、光照射前後で色が変化します。様々な機能を有する化合物を組み合わせる(置換基を導入する)ことで、色の変化だけでなく、蛍光特性、極性、屈折率、電気伝導性などの特性も変化させることができます。一般的な例として、無色の異性体A(紫外域に光吸収帯がある)に紫外線を照射すると、化学結合の組み替えが起こり着色した異性体B(可視域に光吸収帯がある)に変化します。一方、異性体Bは、可視光照射(あるいは熱)によって元の異性体Aへの光異性化反応を起こします(図1)。
この実験では、代表的なフォトクロミック化合物の一つであるスピロナフトオキサジン誘導体あるいはジアリールエテン誘導体(分子構造は図2を参照)を使って、光によって色が一瞬で着脱色する(光異性化反応の)様子を観察することができます。また材料をアルコールに溶かして、絵の具のようにして紙に文字や絵を描いて光照射によって文字や絵を浮かび上がらせて、まるでスパイ映画のように遊ぶことができます。
実験条件を細かく設定する必要があり、うまくいかない場合が多いです。
フォトクロミズムは、端的に「可逆的光誘起異性化反応」と言います。光照射によって、色の異なる2つ以上の異性体(分子量は等しいが、構造が異なる)間で結合の組み替えが起こる反応です。実験で使ったスピロナフトオキサジン誘導体(スピロピラン誘導体)もジアリールエテン誘導体も、2つの異性体(開環体と閉環体)を有します。ただし、スピロナフトオキサジン誘導体は、無色体は閉環体であり、着色体が開環体で、ジアリールエテン誘導体は逆になります。スピロナフトオキサジン誘導体では、閉環体に紫外線を当てると、中心のC-O結合が開裂して、開環体が生成し、着色します。この着色体は熱的に不安定なので、元の閉環体に戻ってしまいます。そのために、着色具合が鈍くなります。一方、ジアリールエテン誘導体の開環体に、紫外光を照射すると、中心骨格である6つの炭素間で化学結合の組み替えが起こります。その結果、閉環体が生成し、着色します。この着色体は、熱的に安定であるために暗所下でも着色したままですが、可視光を照射すると元の開環体に戻ります。したがって、ジアリールエテン誘導体は、光照射のみで可逆的に着色(紫外光照射)と脱色(可視光照射)をコントロールすることができます。粉末の実験に関しては、光照射によってスピロナフトオキサジン誘導体では着色反応を示さず、ジアリールエテン誘導体は着色反応が起こります。これは、スピロナフトオキサジン誘導体では着色体を生成するためには、大きな構造変換(直行型構造から平面型構造へ)を必要とするために、固体中ではその空間が狭いためです。一方、ジアリールエテン誘導体は、閉環体と開環体では大きな構造変換は必要としません。そのため、固体中で光照射によって着脱色反応を観測することができます。
最後に、ジアリールエテン誘導体やスピロピラン誘導体は、開環体と閉環体の間で、色が異なるだけでなく、発光の有無、屈折率や電気伝導度などが異なっています。これらの光物性を光照射によって一瞬で変化させることができるので、光メモリーや光スイッチ、調光材料などへの応用が期待されています。興味深いことに、ジアリールエテン誘導体は、上述したように固体中においてフォトクロミズムを示し、光照射前後で結晶の形状や形態も変化することも報告されています。これは、ジアリールエテン結晶が光エネルギーをそのまま力学的エネルギーに変化させるフォトアクチュエーターとして機能すること意味しています。
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