2023年2月10日
関東地区
茨城大学 工学部
酸化反応は工業化学的に最も重要な反応の1つであり、酸化剤と呼ばれる反応剤が必要になります。酸化剤には、有毒な金属酸化剤や爆発性の高い過酸化物も知られており、これらを大量に使用すると環境負荷や安全性の観点から望ましくありません。一方、酸素は入手容易で副生物も水であるため、魅力的な酸化剤です。特に酸素を20%含む空気を活用できれば、より理想的です。しかし、酸素は通常の状態では安定であるため、酸化剤には利用できません。そこで私たちは光エネルギーによって酸素を活性化できる光触媒の開発を行いました。既存の光触媒では貴金属や高エネルギー光を利用することも多いため、私たちはメタルフリーで白色光を利用できる触媒を目指しました。
有用な還元系光触媒の1つにフェノチアジンと呼ばれる硫黄化合物が知られており、私たちが開発している有機ホウ素発光体(アザボリン)の構造に類似していることから、アザボリンも光触媒に利用できると考えました(図1)。フェノチアジンは酸化されやすく、酸化系光触媒には利用しづらいですが、アザボリンのホウ素部位は酸素親和性が高いので、酸化系光触媒にも適用可能です。
リン化合物や硫黄化合物の酸化によって得られる生成物は、医薬品や配位子に利用される重要な化合物です。そこで、まず白色光照射下、室温にてアザボリンを用いるホスフィンの空気酸化を検討しました。その結果、59%収率でホスフィンオキシドが得られましたが、フェノチアジンでは反応が進行しませんでした(図2)。また、臭素を導入したアザボリン触媒では反応性が大きく向上し、ほぼ100%の収率で生成物が得られました。この触媒を用いたところ、亜リン酸エステルやスルフィドの空気酸化も進行することが分かりました(図3)。
Chem. Commun. 2022, 58, 5001
空気と白色光で酸化反応を促進するホウ素光触媒を開発
簡便かつ環境にやさしい酸化反応の実現に期待
Chem-station
スポットライトリサーチ「ホウ素の力で空気が酸化に参加!?」
上記の結果を踏まえ、現在、私たちはアルコールやアルデヒドなどの空気酸化の開発にも着手しています。また、人工的な光ではなく太陽光を利用できる触媒の設計・合成も行っており、水中で機能する光触媒の開発も行う予定です。将来的には空気、太陽光、水という身近な媒体で酸化反応を実現したいと考えています。
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