かつて先輩教員から聞いた話ですが、工学の「工」の上の横棒は天の法則、下の横棒は地上の人の世界を表しており、「工」は天の法則(理学)と人の世界をつなげる技術を表している、すなわち「工学」は理学の知識を人の世界に役立てる学問であるということでした。高校では、物理や化学などの理科や、三角関数やベクトルなどの数学の授業で理学を勉強していますが、その知識を人の生活に役立てる方法はあまり勉強していないと思います。一方、大学の工学系の学部では、人の生活に役立てるものや方法を開発する研究が行われていますが、その中では理学のどの知識をどのように使うのかということが検討されます。簡単な例として、LEDを安定に点灯させる回路を作ることを考えます。高校までの授業では、電圧と抵抗値が与えられた時の電流値を求めるという問題があると思いますが、LEDを安定に点灯させるためには10mAの電流を流す必要があり、そのためには何オームの抵抗器を使用すべきか求める必要があります。高校までに学習する理学はものづくりに必要な知識ですが、工学系学部での答えを求めるアプローチは、高校までの答えを求めるアプローチとは逆の道筋をたどることが多いと思います。
私の研究は、医療従事者が抱える問題を工学的な技術で解決することを目的としてきました。かつて、救急搬送される患者の病状が搬送中に悪化し、病院に到着した頃には死亡しているという問題を解決する研究を行いました。病状悪化の原因を調べたところ、救急車がブレーキをかけたときに患者の体内の血液が上半身(頭部)に移動することで、頭部の血圧が上昇し、このことが病状悪化の原因の可能性があることを実験的に確認しました。そこで、救急車が減速(慣性力が前方に作用)したときの体内の血液の移動を抑制する方法として、ベッドを傾けて減速時の慣性力と重力をバランスさせる原理を考案しました。そして、減速時の加速度に応じて角度を変えることのできるベッドを作製して、減速時でも血圧が安定することを確認しました。この原理は、高校物理の力学で勉強する、斜面に作用する重力加速度の斜面方向の成分を求める方法の応用ですが、斜面方向の重力の成分をゼロにするために、斜面の角度を何度にすればいいかという式を求めるところが重要になります。
大学の研究では、高校までの知識の応用で問題が解決できることや、特許にまで発展することもあります。将来、工学系の学科を目指したい、人の役に立つものづくりに携わりたいと考えている人は、問題を解決する手段として理学の知識をすぐに取り出せるように、しっかり身につけてください。
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