在宅看護の広がりに伴い、看護の担い手は医療従事者だけでなく家族を含む広い範囲に及んでいます。人工呼吸器使用患者や排痰補助が必要な患者などに実施される気管内吸引は、実施頻度の高い日常的でありながら、侵襲が高く熟練を要する看護手技です。吸引中、患者は呼吸ができない状態なので迅速な遂行が求められる一方で、非目視下でどこにどのように痰があるかわかりません。そのため、想定のもとで吸引に臨むこととなり、これは患者・看護ケア提供者双方にとって大きな負担です。事前に痰がどこに溜まっているか、吸引後に十分吸い切れたかなどがわかると、看護の大きな助けとなり、その手段として聴診は重要です。聴診は、聞き手の感性に依存することが課題とされ、普遍的・定量的な表現が期待されてきました。
本研究室では、聴診音を一旦取得して事後分析したり大規模な計算機を用いたりする従来見られたアプローチではなく、機械学習モデルを扱える小型のマイコンで聴診センサから取得される肺音を即時処理(つまり正常/異常を判別)できるシステムを開発しました(図1)。模擬的に肺音が再生されているスピーカからの音を聴診器で音を取得した際の正常・異常判別の正答率は90%に及びます。そのコンパクトさから、日常的に使えるウェアラブルデバイスとしての自動聴診システムが作れそうです。さらに、この自動聴診システムを胸部に複数配置することで、正常/異常判別の分布から、気管内において痰が溜まっている場所を推定するシステムを開発しています(図2)。身体各部での肺音の分布を模擬するスピーカアレイ(患者模型)に対して、自動聴診システムの聴診器アレイを装着することで、特定のスピーカが異常肺音に変更されたとき、聴診器アレイの該当箇所で異常が検出されています。この辺りに痰がありそうとみなして吸引に臨むことができれば、看護ケア提供者の大きな助けとなり、安全で持続可能な看護に貢献できると期待されます。
図1
図2
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