2018年10月5日
東海地区
名古屋工業大学 工学部
名古屋工業大学では環境への取り組みに関する様々な研究をしています。太陽光発電、微生物発電などのエネルギー関連の環境への取り組みや、微生物による自然分解をするプラスチックの開発や毒性の無い新素材の開発など環境負荷への取り組みなどがあります。 環境のことに興味があるのであれば、工学部への進学はいろいろな取り組みをしているのでオススメですね。
社会工学科環境都市分野の保全生態学研究室では、生物と環境に関する研究を行なっています。なぜ、生物と環境などという工学的ではない研究をしているのでしょうか?
私たち人間は様々な生態系がもたらす恩恵で暮らしています。生態系ネットワークと呼ばれるシステムで全ての生き物はお互いに繋がっています。これらの生態系のネットワークを通じて、様々な物質が地球上を循環しています。現在、人間活動によって生態系ネットワークが様々なところで分断し、地球上の物質循環に影響を与えています。このことが、地球温暖化やゲリラ豪雨などの現象をもたらしていると考えられます。私たちの研究分野では生物間の相互作用を研究することで、どのような活動が生態系を健全に保つことができるのかについて役立てることを目的としています。
カラスザンショウとナミアゲハ。生物は様々な生物と相互関係を保っている。
愛知県では2005年に自然の叡智をテーマとして愛・地球博が開催されました。当初、メイン会場として予定されていた海上の森は、オオタカの営巣が確認され、多くの貴重な生物の生息地となっていたため、自然を守るために保護地区として設定され、会場は変更されました。海上の森は自然を保護するため、利用が制限されることとなったのですが。。。保護された結果、なんと、里山を代表する生物たちが減少してしまったのです。なんてことだ!
そこで、どのようにしたら、以前のような豊かな森にすることができるのか、調査研究を行なっています。
20年前の海上の森にはギフチョウが100匹以上毎年発生していたことが報告されています。しかし、2016年には0という状態です。なぜ、ギフチョウはいなくなってしまったのでしょうか?原因の一つはギフチョウの幼虫が食べている植物が少なくなってしまったのでは?ということが予想されます。ギフチョウが食べている植物はカンアオイと呼ばれる植物の仲間です。本当に海上の森からカンアオイが無くなってしまったのか、実際に現地を調べてみました。実は万博会場として予定されていたため、カンアオイの分布はアセスメント調査でされています。その調査と比較すると。。。。。。。カンアオイは無くなってはいませんでした。ただ、分布域が大きく変わっていたことがわかったのです。
もう一つ考えられる原因は、蝶が生存するにはあまり良い環境ではないかな?ということです。蝶は種類によって飛翔する環境が異なっています。ギフチョウが飛翔するにはひらけた環境が必要です。ギフチョウが飛べる環境、食事のできる環境、卵を産み付けられる環境を作ることができれば、再び昔のような生物の豊かな森に戻すことができるかもしれません。そこで、ギフチョウが飛べる環境を樹木の伐採を行い、作成してみました。その結果、2018年には2匹のギフチョウが観察されています。
研究では樹木の伐採による、明るさ測定や水分条件の変化、食草であるカンアオイ類の成長など様々なデータをとって環境分析を行います。生き物の調査をしながら環境分析をし、今後の管理に役立てるという研究を行なっています。
日本には様々な外来種が侵入しています。外来種は生態系のネットワークを崩してしまい、多くの生物種を絶滅させてしまいます。みなさんがよくご存知のヒアリも外来種ですね。ヒアリのような知名度の高い生物は政府がお金を投資して、研究がされますが、知名度が低くても日本の生態系に深刻な影響を与える生物がたくさん侵入してきています。
例えば、スパルティナ・アルテニフロラというヨシに似た植物があります。日本では熊本と愛知に侵入が確認されています。この植物は干潟に侵入するとあっという間に拡大し、干潟を陸地に変えてしまいます。干潟に生息していた生物にとっては生育場所が消滅してしまい、絶滅してしまうのです。熊本では非常に広い範囲に広がり、駆除が難しい状態です。愛知県では侵入が確認されてすぐに対応が始まりました。刈り取りや掘り取りなどの手法が試されました。
駆除をするには実際どのような植物なのかを知ることが必要です。一株あたりいくつ種子を生産し、どの範囲に種子が散布され、一年でどのくらい栄養繁殖するのか、などのデータを収集する必要があります。そしてそのデータを用いて、シミュレーションをすることで、どこにどのように広がるのかを予測します。そして、それに対して、刈り取りや掘り取りが駆除に効果があるのか考察し、最も適した方法を選ぶことができます。生物の繁殖や拡大を調べることは駆除にも役立つのです。
日本はありとあらゆるところが開発され、人間の手が加わっています。そのため、環境が変わってしまい、様々な生物が絶滅の危機にさらされています。世界で絶滅危惧生物が多く存在する場所を生物多様性ホットスポットと言っていますが、日本は地球上で35箇所あるホットスポットの一つです。
絶滅危惧生物が絶滅しても大して問題ではないという考え方もありますが、生態系ネットワークの観点から考えると、どんな生き物でも人間と関わりがあり、その生物から得られる恩恵が失われることから、非常に重大な問題だと考えています。そこで、絶滅の危機にある生物の生態を調査、研究し、絶滅の原因を特定し、絶滅を防ぐことに取り組んでいます。写真はマメナシという植物ですが、日本では400個体ほどしか生存しておらず、絶滅危惧種となっています。この種を保護するための取り組みをするための基礎研究を行なっています。
絶滅危惧生物であるシラタマホシクサという植物でも同じような調査を行なった結果、無計画な保護活動の結果、遺伝子撹乱が起っていることがわかりました。本来保全されるべき個体群が混ざり合ってしまい、重要な遺伝子が喪失してしまう可能性が示されました。絶滅危惧種の保護には様々な方向からの取り組みが必要です。
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