生物が行動するとき、生体内で酵素による化学反応が起こっています。化学反応は、「活性化状態」というエネルギーの高い中間状態を経て起こります(図1)。「活性化状態」をつくるのに必要なエネルギーを「活性化エネルギー」といいます。酵素は「活性化エネルギー」を低下させることで化学反応の速度を上げています。生き物の行動も化学反応で起こっているので、その行動が起こるための「活性化エネルギー」が観測できるはずです。実際の生き物の行動から、活性化エネルギーを測ってみます。まず、コオロギの鳴き声の頻度が温度に依って変化するのを観察します。その結果を解析して、コオロギの鳴き声の頻度の活性化エネルギーを計算してみます。この実験を通して、化学反応と行動の結びつきを考えてみましょう。
化学反応の速度は温度に依って変化します(図2)。生体内のほとんどの化学反応は、酵素によって触媒されるので、酵素タンパク質が熱変性する高温では反応が起きなくなります。ここでは、熱変性が起こらない温度で、反応速度の温度による変化を測定して、活性化エネルギーを求めます。温度と速度の関係は、アレニウスプロット(図3)という方法で解析します。
1889年、スウェーデンの化学者アレニウスは、温度と化学反応速度の関係についてアレニウスの式を提案しました。アレニウスの式では、速度定数kと絶対温度Tの関係は、
(R(8.31 [J/(K·mol)]):気体定数、Ea:活性化エネルギー、A:頻度因子)
となります。絶対温度Tは、摂氏温度(℃)に273を足したもので、単位はK(ケルビン)です。ここで、両辺の常用対数をとると、
となります。つまり、温度の逆数(1/T)を横軸にして、速度定数の常用対数(logk)を縦軸に取ると、直線の関係になり、傾き−Ea/2.3Rから、Eaが求められます。
小型の発泡スチロール容器に、①何も入れないもの(室温)、②凍らした保冷剤を入れたもの(多めと少なめ)、③使い捨てカイロを入れたもの(多めと少なめ)を用意し、同じ数のコオロギ(数匹)を入れた小さなプラスチック容器を置いて、温度が一定になるまで10分ほど待ちます。それぞれの発泡スチロール容器内の温度も温度計で測定しておきます。その後、温度の異なる環境のコオロギの鳴き声の頻度を、数取器などを用いてカウントします。1分間の回数を測定しますが、20秒、15秒を測定して、それぞれ3倍、4倍してもよいです。個体差が大きいので、気長に何回も測定します。録音して後で鳴き声を数えてもよいでしょう。
データが集まったら、温度と鳴く頻度の関係をグラフにします(図5)。次に、1/絶対温度とlogF1は電卓やスマホで計算し、温度の逆数を横軸に、鳴く頻度の常用対数を縦軸にしてアレニウスプロットをします(図6)。表1のように集計すると便利です。
アレニウスプロットの結果から、活性化エネルギーを求めてみます。プロットした点に合うように直線を描いてみてください*。アレニウスプロットの直線の傾きをグラフから読み取ります。傾きから「活性化エネルギー」を計算します。(*厳密には最小二乗法を用いて直線の方程式を求めます。)
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