水の電気分解をご存じですか? 適度な量の塩が溶けた水中に2本の電極を浸し、乾電池をつなげると片方から水素、片方から酸素の泡が出る現象です。この反応を熱で進行させようとすると、なんと2000℃という高熱が必要になります。しかし、電気分解ではたったの乾電池1~2本分のエネルギーで十分です。この現象はテクノロジーとしても重要で、水素自動車等に搭載される燃料電池や水素のクリーンな製造としてすでに社会実装されつつあり、近年ではカーボンニュートラルの実現にむけて二酸化炭素を燃料に戻す技術としても使われています。ものすごく小さなエネルギーで化学反応を進められてしまうところが、電気化学の魅力です。
私たちは、もとよりパワフルな電気化学に、ナノサイズの金属が示す独特な現象により、さらにパワフルに電気化学反応を進行させる研究を進めています。ナノサイズとは、髪の毛の太さより100倍以上小さな領域、つまり1-100nmの範囲を指します。このサイズの金属は不思議な物理的・化学的挙動を示します。例えば、金のサイズを小さくしていくと金色が赤色に変化し、銀の場合は黄色に変化します。色だけではなく、触媒活性にも変化が表れます。つまり、触媒活性が高まるような金属ナノ構造を導入した電極を使えば、乾電池1本分以下のエネルギーで水の電気分解を進められることができるかもしれません。
問題は、目には見えないナノサイズの構造をどうやって作り、どうやって大きさや形を制御して電極の触媒活性を調節するか、です。私たちは、水と油の管がナノレベル混在した「両連続相マイクロエマルション(BME)」という溶液相で金属を析出する独特な手法(動的ソフトテンプレート法)を研究しています。金属析出の原料となる金属イオンは、水にしか溶けません。よって、水の部分だけで金属が成長し、油では金属が成長しません。その結果、油の部分が空孔となったナノ多孔質金属ができ、高い触媒作用を有するナノサイズの金属の管と、触媒反応を効率的に進めるための広い表面積を両立できるわけです。
この研究で、いままでは白金やイリジウムといった高価かつ希少な金属でしかできなかったことが、地球に豊富に存在するニッケル等の安価な金属でできるようになるかもしれないのです。将来皆さんが、環境に優しい車を安く買えるように、いわゆる「錬金術」の実現を目指して、日々実験を進めています。
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