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おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

体温でモーターを回してみよう

2023年12月26日
宮崎大学 工学部
環境・エネルギー工学研究センター
永岡 章

はじめに

 人間の目では見えないだけで、日本における年間の無駄になっている熱エネルギーは、原子力発電所数十基分に相当します。熱電発電とはその無駄になっている熱エネルギーを電気に変換する再生可能エネルギーのことです。聞きなれない発電ですが、太陽電池とよく似た性質を持ち、半導体を介して発電します。太陽光発電が光を電気に変換するのに対して熱電変換は熱を電気に変換します。どのような見た目をしているかというと、図1のように薄い本体の中にびっしり半導体の柱が並んだような構造をしています。

図1 実際の熱電発電素子とその構造図1 実際の熱電発電素子とその構造

 仕組みはいたってシンプルで、ゼーベック効果という物理現象を利用しています(図2)。半導体の一方を加熱、もう一方を冷却することで内部に発生した電流の素であるキャリアが温かい方から冷たい方に移動することで電気が発生します。よって、より詳しく考えると温度差を電気に変換していることになります。ここでは、体温から電気を作り、モーターを動かす実験を紹介します。

図2 ゼーベック効果の原理図2 ゼーベック効果の原理

準備するもの(図3を参照)

 Amazonやモノタロウといったネット通販で手に入ります。

  • 熱電素子(ペルチェ素子)…2コ
  • モーター…1コ
    今回使用したもの: 標準電圧0.4~1.5V 限界電圧1.5V 電流20mA
  • テスター…1コ
  • テスター用ワニ口クリップ…3コ
  • 保冷剤…1コ
  • タイマー…1コ(スマートフォン機能にあり)
図3 実験で使用する準備物の一覧図3 実験で使用する準備物の一覧

実験1 電圧と時間の関係を調べる。

  1. テスターと熱電素子を接続する。(図4)
    図4 テスターと熱電素子の接続図図4 テスターと熱電素子の接続図
  2. 手のひらを乗せて(図5を参考)、電圧と時間の関係をグラフ化して調査する。グラフの作成に図6を利用する。
    図5 体温による熱電発電の電圧測定図5 体温による熱電発電の電圧測定
    図6 保冷剤なしの場合における電圧-時間の測定図6 保冷剤なしの場合における電圧-時間の測定
  3. 熱電素子の下に保冷剤を乗せて、電圧と時間の関係について実験してみる。グラフの作成に図7を利用する。
    図7 保冷剤ありの場合における電圧-時間の測定図7 保冷剤ありの場合における電圧-時間の測定

問題

 保冷剤あり、なしでどのような変化が得られただろうか。

解説

 保冷剤がない場合はある一定時間経過すると、電圧が下がっていくことが確認できます。保冷剤があった場合はより大きな電圧を示し、時間経過しても高い電圧を保持し続けています。
 大きな電圧の理由は発電原理の通りで、温度差が大きいほど発電するため、体温-保冷剤の温度差が体温-空気の温度差より大きくなるためです。
 時間経過に対し電圧を保持し続けた理由は冷却装置がついていたためです。熱電発電は温度差で発電するため、表と裏が同じ温度になっていくと発電しなくなります。保冷剤があることによって時間経過しても温度差が失われないためです。

実験2 熱電素子をつなげてみよう

  1. テスターと熱電素子×2を並列で接続し(図8を参考)、手を乗せて電圧と時間の関係をグラフ化する。グラフの作成に図10を利用する。
    図8 テスターと熱電素子の並列接続図図8 テスターと熱電素子の並列接続図
  2. テスターと熱電素子×2を直列で接続し(図9を参考)、手を乗せて電圧と時間の関係をグラフ化する。グラフの作成に図10を利用する。
    図9 テスターと熱電素子の直列接続図図9 テスターと熱電素子の直列接続図
    図10 並列 or 直列接続における電圧-時間の測定図10 並列 or 直列接続における電圧-時間の測定

問題

 並列接続と直列接続でどのような違いがあるだろうか。

解説

 並列接続では熱電素子1つの場合とほとんど変わらなかった。直列接続では電圧が2倍ほどになった。並列接続では電圧が一定になるため、電圧には影響がない。直列接続では電圧が足されるため、電圧が2倍になる。

実験3 熱電発電でモーターを回してみよう

  1. テスターをかませながら熱電素子とモーターを接続する。(図11)
    図11 テスター-熱電素子-モーターの接続図図11 テスター-熱電素子-モーターの接続図
  2. 熱電素子裏面に保冷剤を置き、表面を手で温める。(図12)
    図12 体温を用いた熱電発電によるモーターの動作図12 体温を用いた熱電発電によるモーターの動作
  3. テスターで電圧の確認、モーターの回転の速さを確認する。
    (発展)熱電素子を増やす(並列 or 直列接続)と電圧、回転にどのような違いが出るか確認する。(図13)
    図13 直列に熱電素子を増やした場合の接続例図13 直列に熱電素子を増やした場合の接続例

まとめ

 今回は熱電発電について学習し、熱源を体温、冷却を保冷材にするとモーターを回すほどの電気を得ることが確認できました。熱電素子を2つ直列につないだ場合は乾電池1個分の電圧に相当します。他にも熱源を体温よりも高い温度のお湯などで試してみればより大きな電気を取り出せるかもしれません。本発電は、如何にして大きな温度差を作り出し、維持する事がポイントとなります。冷却方法なども工夫してみてください。

  • ※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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