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環境への取り組み

地中熱を用いた持続可能な社会の創出
-SATREPSを通じた脱炭素とエネルギーアクセスの向上に向けた試み-

東北地区

2021年10月22日
東北地区

秋田大学 国際資源学部

はじめに

 秋田大学国際資源学部では、2015年の「持続可能な資源開発実現のための空間環境解析と高度金属回収の融合システム研究」以来2回目となるJST(科学技術振興機構)とJICA(国際協力機構)による「地球規模課題対応国際科学技術プログラム(SATREPS)」プロジェクトとしてタジキスタン共和国における「地中熱・地下水熱利用による脱炭素型熱エネルギー供給システムの構築」の研究を2021年に開始しました。これらは、国際的な水準の教育・研究を推進し、国の内外で活躍する有為な人材を育成するとともに、地球規模の課題の解決に寄与するという国際資源学部の基本理念に基づいた研究プロジェクトです。

 2015年に「パリ協定」が締結されたことで「脱炭素社会(カーボン・ニュートラル)」の実現は、国際社会の合意の一つとなっています。また、同じく2015年には、「国連地球サミット」にて2030年までに国際社会が解決にむけて取り組むべき課題として「持続可能な開発目標(SDGs)」が合意されています。脱炭素社会の実現は、SDGsのゴール7「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」とゴール13「気候変動に具体的な対策を」にて取り組む課題ともされています。秋田大学国際資源学部ではまさに資源学の視点からこれらの課題解決に取り組んでいます。今回の記事では、その取り組みの一つとして先述のSATREPS事業「地中熱・地下水熱利用による脱炭素型熱エネルギー供給システムの構築」について紹介します。

省エネ技術としての地中熱ヒートポンプ技術

 本研究の核となる技術「地中熱ヒートポンプ(Ground Source Heat Pump:GSHP)」は、年間を通して温度が変化しない地盤や地下水などを熱源とする冷暖房技術です。同じく地中からエネルギーを取り出す技術として「地熱発電(Geothermal Power)」がありますが、地熱発電は深部地盤中から生産した蒸気を用いてタービンを回し発電する「創エネ」技術である一方で、エアコンと同じく別途電源が必要なGSHPは、エネルギー投入量を減らす「省エネ(高効率化)」技術の一つです。GSHPシステムは、①地下水が汲み上げ可能な場所では地下水の揚水井と還元井を設置し、ヒートポンプにおいて地下水と直熱熱交換を行って冷暖房を行う「オープンループシステム」と②良好な地下水層がなく、地下水が利用できない場合には、浅部地盤に設置した地中熱交換井(Ground Heat Exchanger、GHE)に水や不凍液を循環して、地盤と熱交換により冷暖房を行う「クローズドループシステム」の二種に分類されます。厳密には前者が地下水熱、後者が地中熱利用に相当しますが、一般的には両システムをあわせてGSHPシステムと呼びます。いずれも年中温度が一定である地下水や地盤を熱源とするため、エアコンと比べて30-50%の省エネルギー効果が得られるとされており、温暖化およびヒートアイランド抑制効果が高いため、欧米や東アジアで広く普及している技術です。化石燃料を用いた暖房から再生可能エネルギーを電源とするGSHPに置き換えれば、大幅なCO2の削減が期待できます。例えば、スコットランド政府は地球温暖化対策として2045年までに200万戸へのGSHP設置を計画しています。本研究が対象とするタジキスタンでも石炭ボイラーからGSHPに置き換えることで、床面積3,000㎡の建物の場合約565t/年のCO2排出量削減が見込まれています。

図1 地中熱ヒートポンプの仕組み(参考:地中熱促進協会)図1 地中熱ヒートポンプの仕組み(参考:地中熱促進協会)

乾燥地タジキスタンでの新たなGSHPの開発

 このGSHPシステムを中央アジアのタジキスタンにて実証するのが本研究プロジェクトの目的です。タジキスタンで実証する理由は主に二つあります。一つは、タジキスタンが石油や天然ガスに恵まれないが、地下水を含め水資源に恵まれていること。次に、タジキスタンのような乾燥地帯でのGSHPの活用例はなく、タジキスタンを事例に乾燥地対応型のGSHPシステムを開発することで、GSHPシステムがより広い地域で活用されるようになり、地球温暖化対策に役立つということです。

 タジキスタンは、首都ドゥシャンベでは十分な電力供給がされていますが、残念ながら地方・農村部の電力アクセスは未だ限定的で、一日当たりの電力供給が2時間など制限されている地域もあります。とくに暖房エネルギーが必用になる冬場に電力が不足しています。これは、タジキスタンの暖房の多くが電力に依存していること、そして絶対的な発電量が不足していることが理由です。この電力不足問題は、一般家庭だけではなく、学校・医療機関・孤児院等公共施設でも同様です。そして、一般家庭では不安定な電力に代わり冬季暖房用に4~5トンの石炭を消費しています。このように、タジキスタンはSDGsゴール7が掲げるエネルギーアクセスの問題を抱えています。暖房を確保しようとすれば石炭消費が進み、石炭利用をやめるのであれば、発電容量を増加させる必要があります。そこで、クリーンで消費電力が少ないGSHPシステムを導入することでこの問題を解決しようというのが本研究の狙いです。

 また、タジキスタンを含む中央アジアではGSHPシステムの設置例は未だにない状態です。これは、GSHPが寒冷地から発達した冷暖房システムであったこと、タジキスタンを含む旧ソ連では、火力発電所を供給源とした街区単位での地域熱供給システムが整備されたこともあり、GSHPが空調システムの選択において候補とならず、関連産業分野が未発達であるためと考えられます。そして未発達であったが故に、乾燥地帯である中央アジアに適合したGSHPシステムが開発されていません。欧米や日本と同じく明瞭な四季がある中央アジア地域では、冷房時と暖房時間における地盤での良好な熱収支が期待されるため、GSHPシステムは非常に有望な技術と言えます。また、GSHPはある程度確立した技術であるからこそ、技術力が乏しい途上国での利用に向いています。確立して安定的な技術を活用しやすい形に改良すること、つまりタジキスタンで乾燥地適応型GSHPシステム(タジキスタンモデル)を開発して、GHSPシステムが浸透してない周辺の中央アジア諸国も含めた乾燥地帯にGHSPシステムを普及することで、エネルギーアクセスと地球温暖化対策を行うのが本研究プロジェクトの狙いです。

図2タジキスタンの位置図2タジキスタンの位置
図3タジキスタンの首都ドゥシャンベの街並み図3タジキスタンの首都ドゥシャンベの街並み
(中央にある煙突が火力発電所、町の中心部にあるため大気汚染が問題となっている)

今後の予定

 本研究プロジェクトはまだ始まったばかりです。残念なことにコロナウィルスにより海外渡航に制限がかかっていることもあり、海外での調査・実証が不可欠な本プロジェクトの本格的な開始は2022年からとなります。本格的に開始されるとともに、人工知能やリモートセンシングなども導入し、効率的なGSHPシステムの開発を進めていきます。プロジェクトの進展度合いについては、また改めてご報告したいと思います。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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