「デフスペース・デザイン」という言葉を聞いたことがありますか? これは、聴覚障害者を単に「聞こえない人」として捉えるのではなく、「音声以外の情報で生きる文化を持つ人」として理解し、その行動特性に合わせた空間をデザインする考え方です。アメリカで提唱されたこの手法では、ガラスや鏡を使用して視覚情報を増やしたり、視線が自然に交わる結節点のような空間をつくったり、手話コミュニケーションに適した空間の広さを設定したりする工夫がなされています。このようなデザインは、音声中心の世界に適応させるのではなく、聴覚障害者の暮らしを尊重し、その文化に根ざした環境を生み出すものです。
この考え方は、すべての人が快適に暮らせる社会の可能性を示しています。そして、工学の学びを通じてこそ、こうした「人に寄り添う技術」の本質を追求することができます。
大学での工学の学びは、数学や物理の基礎知識を活かし、理論と実践を結びつけて社会課題を解決する力を育むものです。学んだ理論を用いて製品やインフラを設計し、それが目に見える形で人々の生活を支える瞬間には、大きな達成感が得られるでしょう。また、工学が取り組むスケールは非常に幅広いものです。ナノテクノロジーのように原子レベルの技術を扱うものから、都市計画のように社会全体に影響を与える壮大なプロジェクトまで、工学にはさまざまな可能性が秘められています。
しかし、技術が真に社会に貢献するためには、多様性への深い理解が不可欠です。デフスペース・デザインが教えてくれるように、私たち工学者が目指すべきは、すべての人が心地よく暮らせる環境を実現することです。特定の集団を「特別」視するのではなく、その文化や行動様式をありのままに受け止め、それに適したデザインを生み出す姿勢が重要です。こうした「ユーザーオリエンテッドデザイン」の実践は、工学が社会を支えるための本質的な在り方であり、多様性の尊重と技術の融合が未来を創造する鍵でもあります。
工学の学びは決して平坦な道ではありません。しかし、その努力の先には、技術を通じて社会をより良くする力が待っています。皆さんが工学を通じて多様な視点を学び、挑戦を重ねることで、未来を切り拓く力を身につけられることを願っています。新しい時代を築く仲間として、大学の工学部でお会いできる日を心より楽しみにしています。
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