私たちは、社会において多くの人とのコミュニケーションや交わりを通して成長し、生きがいを見出していきます。しかしながら、脳性まひや脳梗塞などにより発話が困難になり言葉を他人に理解してもらえない場合、社会に出たくても自分の意思を声にして伝えることが困難であるため、社会で孤立する可能性があります。さらに電話などを使用したコミュニケーションも同様に困難であるため、コミュニケーション社会から遠ざかる状況になるかもしれません。
発話困難者のコミュニケーションを支援する技術として、音声認識、音声変換・合成技術があります。これらの研究では、人間の脳を模倣したディープラーニングという手法が使われています。近年、囲碁や将棋でプロ棋士に勝つコンピュータが現れるなど、人工知能(Artificial Intelligence: AI)が注目されていますが、このAIを支えている手法の一つが、ディープラーニングです。
近年注目されているディープラーニングでは、一般的に多くの学習データが必要です。また、発話困難者の苦手な発話音素、音素の欠落などの解析についても、多くの発話データが必要となります。例えば脳性まひ者は、発話時においても筋肉の緊張が非常に大きくなり、健常者と比べて身体への負担が大きくなります。そのため、多量の学習データを収集するのは容易なことではありません。発話困難者の支援技術においては、少量学習データによる音声認識、音声変換・合成手法の研究が重要なテーマの一つとなります。
また通常の声質変換を発話困難者に用いた場合、音声は “健常者の声”に変換され、発話困難者の話者性は完全に別の健常者の話者性へ置き換えられてしまいます。もちろん、そのような応用も選択肢の一つとして重要ではあります。一方、発話困難者の日常生活、自立生活の支援に注目した場合、発話困難者のなかには、「自分らしい声で話したい」というニーズもあり、別の健常者の声に変換するのではなくて、発話困難者の話者性を維持した声質変換、音声合成技術の確立も重要となります。
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