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環境への取り組み

水を使わない繊維の染色による環境負荷の低減と脱色による繊維の資源循環への貢献

信越・北陸地区

2025年7月25日
信越・北陸地区

福井大学 工学部
物質・生命化学科 廣垣和正 教授

 繊維製品の染色には、大量のエネルギーと水、種々の薬剤が使用されています。特に水の使用量は膨大で、世界で年間に5.8兆リットル[1]もの水資源を消費し、廃水は全工業の20%[2]をも占めます。また、繊維製品の廃棄が世界的な社会問題となり、繊維材料の資源循環が求められていますが、製品からの染料の除去がボトルネックとなり、リサイクルが進まない現状があります。日本だけでも年間に51.2万トン[3]の衣服が廃棄されています。世界の繊維製品の消費量は、地球人口の増大と共に年々増加しており、近い将来、環境負荷が過多になり、自由に色がついた衣服を着られなくなるかもしれません。この問題を解決するために、染色媒体である水を超臨界二酸化炭素に置き換えた超臨界流体染色(図1)を研究しています。

 超臨界二酸化炭素は、二酸化炭素の温度と圧力を上昇させ臨界点を超えた状態の流体で、液体のようにものを溶かす性質と気体のように細かい隙間にも容易に入り込んでいく性質を併せ持っています。繊維の細かい隙間に染料を溶かして運び込む染色にはうってつけの流体です。超臨界流体染色は、工程の簡略化や排水処理の不要により、染色工程の省エネルギー化が可能となり、水の使用量がゼロで廃液を全く出さず水環境への負荷もありません。用いる二酸化炭素も回収して再利用できる理想的なプロセスです。

 一方で、染色された衣服のリサイクルには、繊維をそのまま次の製品に使うマテリアルリサイクルと、繊維を原料に戻してから新しく作り直すケミカルリサイクルがあります。染色された衣服のリサイクルでは、前者は染め直しができず異なる色の製品を合わせていくと褪せた黒色になってしまいます。また、後者は染料が不純物となり高分子の解重合・再重合を阻害するため、リサイクルには衣服からの染料の除去が不可欠です。しかしながら、従来の大量生産・大量消費型の繊維産業では、染料を除去する技術の研究がされてきませんでした。

 私達は、超臨界流体染色のメカニズムの解明に始まり、水を用いた染色で着色が不可能だったポリプロピレン繊維や、親水性で疎水性の媒体を用いる超臨界流体染色が不可能とされた綿繊維の染色に対して、染料開発から染色プロセスまでを研究し、不可能を可能にしてきました。これらの成果を礎に、2022年からNEDO先導研究プログラムを2年間実施し、世界初となる精練から染色、機能加工までの繊維加工の全工程を超臨界二酸化炭素により行うプロセスを開発しました(図2)。また、この過程で超臨界流体を媒体として、繊維から染料を抽出する方法を開発しました。超臨界流体は条件を変えると性質が変わる特徴を持ちます。染色では染料が超臨界二酸化炭素と比べて繊維と仲が良い状態を作り出すことで、超臨界二酸化炭素に溶けた染料が繊維に収着されていきます。これとは逆に、条件を変えて性質を調整し、染料が繊維より超臨界二酸化炭素と仲が良い状態にすると、繊維内にある染料が超臨界二酸化炭素に溶けだして容易に脱色できることを見出しました。2023年から2年間実施されたJST COI-NEXT地域共創分野育成型に参加し、脱色を中心とした循環型繊維産業(図3)に係り、人の行動変容による繊維産地ビジョンの構築に貢献してきました。成果を2025大阪・関西万博で文部科学省の「わたしとみらい、つながるサイエンス展」に出展します。現在は、超臨界流体染色および、超臨界流体脱色による染色産業の環境負荷低減と、繊維の資源循環の社会実装を目指してさらに研究を進めています。

参考文献)1. RSC, Chemistry World, 4 December (2013), 2. 繊維学会誌, 77, 3 (2021), 3. 環境省, 令和2年度ファッションと環境に関する調査業務

図1 超臨界流体染色の概要 図1 超臨界流体染色の概要
図2 水を用いる染色整理工程(薄く標記)に比べ、超臨界二酸化炭素を用いて工程を大幅に削減、エネルギー使用量を半減 図2 水を用いる染色整理工程(薄く標記)に比べ、
超臨界二酸化炭素を用いて工程を大幅に削減、エネルギー使用量を半減
図3 超臨界流体染色・超臨界流体脱色による繊維産業の環境負荷低減・資源循環への貢献 図3 超臨界流体染色・超臨界流体脱色による繊維産業の環境負荷低減・資源循環への貢献
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