2015年11月30日
九州地区
熊本大学 工学部 大学院自然科学研究科
熊本大学では環境負荷の小さい社会を実現するためエコエネ研究会をつくり、様々な基礎研究を行っている。その一つとして、本学で開発された流体混合器を用いた環境浄化の研究例を紹介する。
流体混合器を右に示す。加圧した水(あるいは空気)を右側の管から供給すると、オリフィス直下流では流れの圧力が減圧され真空に近づく。その減圧作用によってオリフィス下流に設けた多孔パイプを通して空気(あるいは水)が自動的に吸引され、高速で流れる加圧水(あるいは空気)によってせん断・微細化されるので、マイクロバブル(あるいはミスト)を容易に作成可能である。一般的な二流体式の混合器では両方の流体を加圧する必要があるのに対し、この混合器は片方の流体を加圧するのみで良いので設備費が低減される。また、消費電力も少なくて済むので、太陽電池等の低出力電源でポンプや送風機を動かしてマイクロバブルやミストのほかエマルジョンなどの様々な微細な混合物を作ることができる。
直径50μm 以下の微細水滴で、降下速度が遅く、空気中での拡散性に優れている。このため、気体との反応性に優れる。
直径100μm 以下の微細気泡で、浮上速度が遅く、水中での拡散性に優れている。このため、水中への溶解性に富む。また、電気的にマイナスに帯電している。
*熊本大学はマイクロバブル発生について技術支援
緑川におけるアユの漁獲高は、1971年のダム(貯水量46×106 m3)建設以降、徐々に減ってきている。そこで、緑川漁業協同組合の組合長が本学に来られ、以前の水質に戻せないかと相談された。
国土交通省緑川管理事務所と熊本県企業局の協力を得てダムの低層水を採取し、マイクロバブルとエコバイオリング((株)ビッグバイオ製)を用いて熊大で水質浄化試験を行った。
低層水は酸欠状態で水の浄化に必要な好気性バクテリアがいない場合が多い。そこで、バクテリアを増やすために、好気性バクテリア(Bacillus bacterium) とバクテリアの餌を含むエコバイオリング(EBR)を使い、マイクロバブルを用いて酸素を補給した。
40分×6 回/日の間欠曝気を実施 | エコバイオリング |
浄化試験における水質変化(各欄の上と下の数値は初日と2週間後の値(QG = 2 L/min, EBR有り))
試験水名 (取水日) |
DO mg/L |
BOD mg/L |
COD mg/L |
Turbidity mg/L (PSL) |
pH |
---|---|---|---|---|---|
第1水 (2013/6/14) |
5.8 7.4-8.2 |
19 4-8 |
No data No data |
0.4 0 |
7.5 7.8 |
第2水 (2013/7/1) |
5.4 7.0-7.8 |
46 6-10 |
10 4-6 |
1.5 0 |
7.5 8.0 |
最終日のBOD(生物化学的酸素要求量)はより汚い第2水で5.6から10.4 mg/L となり、環境省が定めた河川の水質基準Bである水産2級(鮎が生息できる)の3 mg/Lに近い値となった。
地球温暖化物質であるCO2の大気中への放出を減らす方法としてミストによる吸着を研究する。本学で開発した二流体式と一般的な一流体式で発生したミストによるCO2の吸着性能を比較し、上記の二流体式の優位性を確認する。
一流体式の水導入管の直径は比較する二流体式と同径とした。スワラーには市販品を使用し、出口のオリフィス径と厚さが最適なものを見出し、その後にCO2の吸着性能について二流体式との比較を行った。
噴霧終了直後のミスト室の写真の比較
ミスト室底部におけるCO2 濃度の時間変化は図に示す通りで、二流体式で発生したミストによるCO2吸着量は一流体式のそれの二倍程度であることが分かる。これは、二流体式で発生したミストの粒径が一流体式のそれよりも小さく室内で長時間浮遊するため、CO2を吸着できる界面積濃度と反応時間が大となるためである。
資料提供: 先端機械システム講座
佐田富道雄教授、川原顕磨呂准教授
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