図1_素材が異なる3種類の布
写真(図.1)の素材が異なる3種類の布は一見すると同じ白い布に見えます。ヒトが色として認識できる波長380nm~780nmの光(電磁波)を「可視光線」と呼び、全ての可視光線が一度に目に飛び込んだ場合に白色で見えます。一方、物体に色があるということは、その物体から色に対応する波長の光だけが目に飛び込んでいることになります。赤外線は可視光線よりも長い波長780nm~1mmの光の領域を指します。赤外線は目に見えませんが、赤外分光光度計という分析装置を使用すれば確認することができます。それでは、素材の異なる3種類の布を赤外線で確認するとどうなるでしょうか?
赤外線も可視光線と同じ電磁波であるので物体に照射されると反射や吸収などの現象が発生します。赤外線での吸収現象は素材を構成する分子内にある官能基の振動で起こります。詳細には、照射された赤外線のエネルギーを官能基が振動するエネルギーとして使われることで「赤外線が吸収された」という現象になります。
図.2は綿、絹、ポリエステルの各布を赤外分光光度計で計測されたスペクトルです。赤線の綿のスペクトルは3300cm-1や1040cm-1に大きなピークが見られます。綿の主成分はセルロースであり、それを構成する分子であるO-Hの伸縮振動が前者、後者はC-O-Cの伸縮振動による吸収ピークです。青線の絹の主成分はフィブロインやセリシンとタンパク質であり、CONH結合内のC=Oの伸縮振動である1640cm-1とC-N-Hの変角振動である1540cm-1に吸収ピークが見られます。緑線のポリエステルには1715cm-1、1240cm-1、725cm-1に吸収ピークが見られ、それぞれC=Oの伸縮振動、C-Oの伸縮振動、C-Hの変角振動による吸収です。
このように、布の素材が変わればそれを構成する分子構造も変わるため、赤外分光光度計で計測されるスペクトルの形状も変わります。つまり、布の見た目(可視光線)ではほとんど同じであっても、赤外線で見ると大きく異なります。よって、スペクトルの形状から素材を特定することが可能になります。信州大学繊維学部児山研究室では、この計測方法を利用して繊維製品の素材の非破壊分析、繊維製品に付着した異物の特定、繊維製品の吸水量の評価方法などに応用し、社会貢献できる様々な計測方法について研究しています。
図2_スペクトル
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