トップページ > おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界) > 重力レンズの世界

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

重力レンズの世界

2020年7月31日
弘前大学 理工学部
地球環境防災学科 准教授 高橋 龍一

はじめに

 重力は私達に身近な力です。地上の物体が地面に落ちる現象や、地球が太陽の周りを回るのも重力の影響です。約100年前ドイツの学者アインシュタインは相対性理論を提唱し、光でさえも重力に引っ張られて、その光路が曲げられることを予言しました(下図①)。その後、太陽の近くを通る光が実際に曲げられていることが観測から確認されました。

 図②のように星、天体と観測者が一直線に並ぶと、重力レンズ効果により星はふたつの像に分かれて見えます。図③は実際に観測された事例です。背後の天体(クエーサーと呼ばれます)が手前の銀河による重力レンズを受けてふたつの像に見えています。このような例はこれまでに100個以上見つかっています。また重力レンズは背景の像を歪ませる効果もあります(図④)。背景の像の歪みから、手前の天体の重さを推定できます。天文学では重力レンズは天体の重さを測るのに使われています。

ブラックホールによる星の変形

 ここでは、ブラックホールの重力により背景の星がどう歪むか見ていきます。図⑤のように星の手前をブラックホールが横切る状況を考えます。視線方向に近づくと図⑥のように星がふたつに見えます。さらに近づいて、ちょうど星とブラックホールが視線方向に並ぶと、星がリング状に見えます(ここでは星が五芒星をしているため、像が五角形に見えています)。これをアインシュタインリングと呼んでいます。このような丸い像は実際の観測で幾つも見つかっています。

もしブラックホールが身近に存在したら!?

 下の画像⑨は弘前大学理工学部の建物から撮影した岩木山の写真です。岩木山は津軽地方を代表する山です。左側に体育館と煙突が見えます。画像⑩は太陽質量程度のブラックホールが岩木山の手前に存在したら見える風景です。煙突が歪んで、山に残る白い雪がアインシュタインリングを作っているのがわかります。このように、もし重いブラックホールが身近にあると、身の回りの景色が一変します。

もっと勉強したい方へ

 ここで取り上げた内容を家庭や学校ですぐ再現することは難しいです。ただ重力レンズに関しては、天文学辞典(オンライン版)や科学雑誌(ニュートンや日経サイエンス等)で基礎を学ぶことはできます。興味のある方は御覧下さい。より進んだ内容を知りたい方は、一般相対性理論の教科書を御覧下さい。

 なお、重力レンズの図を作成するにあたり、武田隆顕さん(国立天文台)の助力を頂きました。どうもありがとうございました。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

関連記事

2021-02-08

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

スマホのセンサで高さを測る

新潟大学工学部

2022-11-18

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

カメラと映像の仕組み ~おもしろ写真を撮ってみよう~

和歌山大学システム工学部

2020-03-13

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

手作りカメラで写真を撮ってみよう

福井大学工学部

2014-02-25

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

レンズカメラを作ろう

山口大学工学部

2023-12-07

生レポート!大学教授の声

現代宇宙論の最新成果に関するアウトリーチ活動

福島大学共生システム理工学類

2023-03-03

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)

上に向かって伸び続ける植物の根?

北見工業大学工学部

弘前大学
理工学部

  • 数物科学科
  • 物質創成化学科
  • 地球環境防災学科
  • 電子情報工学科
  • 機械科学科
  • 自然エネルギー学科

学校記事一覧

おもしろ科学実験室(工学のふしぎな世界)
バックナンバー

このサイトは、国立大学55工学系学部長会議が運営しています。
(>>会員用ページ)
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。
これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。