重力は私達に身近な力です。地上の物体が地面に落ちる現象や、地球が太陽の周りを回るのも重力の影響です。約100年前ドイツの学者アインシュタインは相対性理論を提唱し、光でさえも重力に引っ張られて、その光路が曲げられることを予言しました(下図①)。その後、太陽の近くを通る光が実際に曲げられていることが観測から確認されました。
図②のように星、天体と観測者が一直線に並ぶと、重力レンズ効果により星はふたつの像に分かれて見えます。図③は実際に観測された事例です。背後の天体(クエーサーと呼ばれます)が手前の銀河による重力レンズを受けてふたつの像に見えています。このような例はこれまでに100個以上見つかっています。また重力レンズは背景の像を歪ませる効果もあります(図④)。背景の像の歪みから、手前の天体の重さを推定できます。天文学では重力レンズは天体の重さを測るのに使われています。
ここでは、ブラックホールの重力により背景の星がどう歪むか見ていきます。図⑤のように星の手前をブラックホールが横切る状況を考えます。視線方向に近づくと図⑥のように星がふたつに見えます。さらに近づいて、ちょうど星とブラックホールが視線方向に並ぶと、星がリング状に見えます(ここでは星が五芒星をしているため、像が五角形に見えています)。これをアインシュタインリングと呼んでいます。このような丸い像は実際の観測で幾つも見つかっています。
下の画像⑨は弘前大学理工学部の建物から撮影した岩木山の写真です。岩木山は津軽地方を代表する山です。左側に体育館と煙突が見えます。画像⑩は太陽質量程度のブラックホールが岩木山の手前に存在したら見える風景です。煙突が歪んで、山に残る白い雪がアインシュタインリングを作っているのがわかります。このように、もし重いブラックホールが身近にあると、身の回りの景色が一変します。
ここで取り上げた内容を家庭や学校ですぐ再現することは難しいです。ただ重力レンズに関しては、天文学辞典(オンライン版)や科学雑誌(ニュートンや日経サイエンス等)で基礎を学ぶことはできます。興味のある方は御覧下さい。より進んだ内容を知りたい方は、一般相対性理論の教科書を御覧下さい。
なお、重力レンズの図を作成するにあたり、武田隆顕さん(国立天文台)の助力を頂きました。どうもありがとうございました。
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