近年、リチウムイオン電池はスマホから電気自動車まであらゆる製品の蓄電池として普及している。一方で、この電池は充放電を繰り返すと劣化し、最悪の場合には発火することもあるので、ある程度使用した後には電池を製品から取り外して廃棄しなければならない。つまり、将来的に電池の廃棄処理の需要が高まることが確実である。リチウムイオン電池の場合、電池正極材にはコバルト、ニッケル、マンガンといった希少価値の高い金属が正極活物質として使われているため、廃棄電池の正極材からそれらの正極活物質を回収するリサイクル技術の開発が求められている。特に日本のような資源を持たない国では、廃棄物から貴重な資源を回収するリサイクル技術を開発する意義は大きい。
以上の背景を基に、これまでの電池リサイクル技術が各所で開発されている。それらは表1のように要約できる。
プロセス | プロセスに利用する現象 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|
乾式冶金 | 高温熱分解 | 工業化が容易 | 高エネルギー消費 |
湿式冶金 | 酸浸出 | 高い回収効率 | 高環境負荷 |
バイオ湿式冶金 | 微生物代謝 | 低環境負荷 | 長い処理時間 |
一方、我々の研究室では、表1の従来法にとらわれない、新しい電池リサイクル技術として、大気圧高電圧パルス放電を利用したリチウムイオン電池正極活物質のリサイクル法を提案してきている。この提案手法では、酸溶液を利用しないことで環境負荷を抑えるとともに、高電圧パルス放電が持つ高エネルギープラズマを利用することでプロセス時間の短縮を実現して、これまでの電池リサイクルプロセスの欠点を解決しようと考えている。
現在のところ、図1に示すような自作の大気圧高電圧パルス放電装置を研究室に構築し、この装置で最高で50kVから100kVの高電圧パルス放電が発生することを確認している。放電は図2のように発生している。
この装置を利用して、廃棄リチウムイオン電池から取り出した正極材を装置内の放電電極に設置し、正極材に放電をあてる実験を行っている。図3は放電後の正極材やその周辺の写真である。図のとおり、放電があたった箇所では正極材から正極活物質が剥がされて周囲に飛散している。そして、飛散した物質を回収して元素分析することで、著者らの提案法により電池の正極活物質が回収できることまで実証している。
ただ、著者らの提案法を本格的な工業リサイクルプロセスに導入するためには放電域を広げて処理能力を向上させることが不可欠である。そこで、著者の研究室では、放電条件の最適化や電極形状の変更などを検討し、放電領域拡大を目指して研究を進めているところである。
図1 製作した大気圧高電圧パルス放電装置
図2 放電の様子
図3 放電後の正極材と飛散した正極材
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