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環境への取り組み

海洋生物の力を借りる〜海洋生物由来のタンパク質によるプラスチックの海洋生分解性の向上〜

東北地区

2024年12月23日
東北地区

山形大学 工学部 システム創成工学科
教授 宮 瑾

研究目的

 世界規模で地球環境保全への取り組みが加速するなか、マイクロプラスチックによる環境汚染が深刻な問題となっています。こうした課題に対応するため、近年では微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素に分解される「生分解性プラスチック」などの新素材や代替素材が注目されています。これらの素材には、天然由来の高分子、動植物・微生物由来の天然有機化学物などが考えられます。海洋環境におけるプラスチックの生分解性向上を目指して、我々は海洋生物由来のタンパク質を活用しています。具体的には、クラゲ由来のタンパク質をフィラーとして、生分解性を有するプラスチック(ポリカプロラクトン、PCL)に添加することで、生分解性の向上とさらなる生分解性スイッチ機能の付与に取り組んでいます。これにより、淡水または海水中に大量に生息するクラゲを活用し、環境への負荷を低減しつつ、生分解性を持つPCL/クラゲ粉複合材料の開発に注力しています。

研究のポイント

クラゲ由来タンパク質の活用

 プラスチックの海洋生分解性を向上させるという目的にあたり、海洋生物がタンパク質であり自然と分解する点に着目し、本研究は淡水または海水中に大量に生息するクラゲを用いました。これにより、環境への負荷を低減しつつ、新たなスイッチ機能をもつ生分解性複合材料の創成が期待できます。 (クラゲ由来のタンパク質を活用したPCL/クラゲ粉複合材料の作製方法と手順を図1にご参照ください。クラゲは鶴岡市立加茂水族館のご好意により提供いただきました。)

図1 クラゲ由来タンパク質を活用したPCL/クラゲ粉複合材料の作製方法と手順。図1 クラゲ由来タンパク質を活用したPCL/クラゲ粉複合材料の作製方法と手順。

クラゲがもたらす課題の解決へ

 クラゲは近年世界で大量発生しており様々な場面で影響を及ぼしています。主な例としては、新たな生態系が生まれることによる二酸化炭素排出量の増加、定置網の破網、魚がクラゲの刺胞に刺されることによる商品価値の下落、発電所の取水口でのつまりによる発電の阻害などが挙げられます。大きな被害をもたらすクラゲの大量発生を利用できる点も本研究の強みとなっています。

海洋分解性の向上に成功

 開発したPCL/クラゲ粉複合材料の海洋生分解性を確認するために、愛媛県愛南町の海でフィールド試験を実施しました。その結果、クラゲの含有量が多くなるにつれて、PCLの海洋生分解性の評価指標である重量減少率が最大84%向上することが確認できました(図2をご参照ください)。(フィールド試験は内閣府ムーンショット伊藤(耕三)プロジェクトの一環で、一般財団法人化学物質評価研究機構(CERI)様、愛媛大学様などのご協力の基で行われました。)

図2 愛媛県愛南町の海でフィールド試験を実施しました。クラゲ由来のタンパク質を活用することにより、PCLの海洋生分解性が84%向上することが確認できました。図2 愛媛県愛南町の海でフィールド試験を実施しました。クラゲ由来のタンパク質を活用することにより、PCLの海洋生分解性が84%向上することが確認できました。

現在、材料の物性や海洋生分解のメカニズムなどを調査中

 これまでの研究から、クラゲ由来のタンパク質を活用することで、PCLの海洋生分解性を向上させるに成功しました。現在、本学工学部の伊藤浩志教授、当研究室の大学院生(吉田晃君、山崎豪弥君)および学部生(一関蒼君、鈴木光輝君)と共に、引張特性と引裂挙動によりPCL/クラゲ粉複合材料の力学物性を評価・確認しながら、クラゲ由来タンパク質による生分解メカニズムについての調査を行っています。これらの結果から、クラゲ由来タンパク質の生分解性スイッチング機能についてさらに深く考察し、その解明を目指しています。

参考文献

 Koh Yoshida, Sayaka Teramoto, Jin Gong, Yutaka Kobayashi, Hiroshi Ito, Enhanced Marine Biodegradation of Polycaprolactone through Incorporation of Mucus Bubble Powder from Violet Sea Snail as Protein Fillers, Polymers 2024, 16(13), 1830 (14 pages).

 https://doi.org/10.3390/polym16131830

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