2022年2月10日
九州・沖縄地区
長崎大学大学院工学研究科
社会環境デザイン工学コース 鈴木誠二 田中亘
国際水環境工学コース 板山朋聡
開発途上国には、安全な水資源を利用できない人々がいまだ多く、例えば、東アフリカのビクトリア湖岸の住民は直接に湖水等の表層水を採取し飲料水や生活用水に利用しています(図1)。ビクトリア湖では、場所によってはアオコなどの有毒藍藻(強力な発ガン物質ミクロシスティンを生産する)が増殖しており、住民の健康が脅かされています。長崎大学工学部社会環境デザインコース、および工学研究科国際水環境工学コース(令和4年度以降、水環境科学コースに改変)では、こうした開発途上国向けの低コストな水処理システムを研究開発しています。具体的には、開発途上国で得られる身近な材料であるトウモロコシ(の非可食部である芯など)から作製した炭(バイオ炭)や、廃棄物である牡蠣殻などを用いた水処理システムと、それを簡易にモニタリングするための携帯電話のデジカメ等を用いたクロロフィルa簡易測定手法を研究開発しています。
長崎大学工学部社会環境デザインコースと国際水環境工学コースでは、こうした途上国向けの水処理システムの特徴である低コストで簡易であるという点を応用して、大村市立松原小学校の六年生の児童を対象に水槽の水の浄化実験を通した環境教育プログラムを2018年度から提供しています。
長崎大では小学生が学んできた知識の上に、河川や湖沼などの生態系や水質汚濁の現状、自然浄化の仕組みと、それを応用した河川や池の水質浄化方法についてわかりやすく解説した上で、実験も行ってもらうことで、単なる水の大切さだけでなく水環境に対する科学的理解を深めてもらい、さらに小学生に科学や技術に関する興味を深化させることを目指しています。
体験学習では、まず公園の池の水に栄養塩を添加して藻類を発生させた水槽の水の浄化実験を児童ら自身で実施します。児童には大村湾周辺では身近な材料である牡蠣殻を破砕した濾材(担体)や、島原で入手したトウモロコシ芯からの炭(バイオ炭)をモデル浄化水路に充填してもらい、水槽の上部に設置させます。この水路と水槽とポンプで循環させることで浄化が行われますが、単に目視で水が綺麗になることを見せるだけでなく、水質浄化の能力を定量的に評価させることで、科学的手法を学ばせることを実践しています。
小学校でクロロフィルaを簡易に定量させるために、長崎大学で開発したデジカメを用いたクロロフィルa簡易測定手法を用いています(RGB法)。このデジカメでの測定では画像のRGBをソフトで読み込み、さらに各RGB値を簡単な計算式(VWRI値を算出)に当てはめ、グラフを用いて、その計算値からクロロフィルaを推定してもらいます。実際に小学6年生は、これらの作業は難しいと感じていたようですが、かなり正確なクロロフィルa値を得ることができていました。
図3.小学生が記録したデータシートとVWRI計算この環境教育を通して、松原小学校の児童には実際に地元の富栄養化した池の水を身近な材料を工夫することで水質浄化ができることを学んでもらい、水環境への理解と感心を深めることができるよう工夫しています。その成果は、小学校内の児童とPTA向けの発表会だけでなく、新聞の記事やテレビのニュースにも取り上げられ、児童だけでなく、その両親や地域も含めた形で、身近な大村湾などの水環境の重要性と基礎知識の普及に貢献しています。
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