2020年9月4日
九州地区
鹿児島大学 工学部
主に沿岸付近に暮らす人々を苦しめる海岸漂着プラスチックごみ(以下、漂着ごみ)は、早急に対策が必要な地球環境問題の一つです。当然、日本の沿岸域も例外ではなく、多くのごみが漂着しています(図1)。しかしながら現状では、この様な漂着ごみを正確に、且つ客観的に定量化する手法は確立されておらず、「どの程度の漂着ごみ」が「どこに存在するのか」を精度良く知ることはできません。
過去、多くの研究者や地方自治体、NGO等によって、漂着ごみ量の調査が行われてきましたが(例えば、 Derraik, 2002)、そのほとんどは人手によるごみ回収作業に基づいたものです。これらは統一された手法が取られていないため、データの精度に一貫性がなく、取得したデータ間の比較が難しいことが問題です。加えて、人が立ち入れない海岸においては、データ自体が存在しません。また、多大な経済的負荷あるいは人的資源の制約により高頻度の調査は困難で、人の手に頼る以上、精度の向上にも限界があります。
一部の研究では、バルーンなどを用いた低高度リモートセンシングと、画像解析を組み合わせた方法が取り入れられましたが(例えば、 Kako et al., 2012)、観測機器の機動性や画像解析の客観性に大きな問題があります。
そこで鹿児島大学工学部の加古研究室では、機動性・客観性・汎用性をキーワードに、上記の問題解決に取り組んでいます。広範な海岸をカバーする機動性はドローンを使用することによって得ます。海ごみ判定の客観性は、AI技術を基盤とした画像解析手法を構築することにより獲得します。そして、この二つを組み合わせることで、海岸漂着ごみの7割を占めるとされる(Derraik, 2002)プラスチックごみの総体積量を推定可能な、汎用性の高い定量化手法の開発に挑戦しています。
我々が海岸の一括観測に使用しているドローン(図2)は、高解像度の4Kカメラを搭載しており、付属のアプリケーションを使うことで撮影範囲の指定および自動撮影が可能です。約200m×60mの海岸を撮影するのに要する時間は20分程度ですから、人手に頼った方法よりも迅速に海岸全体の様子を把握することができます(人力での調査は1日で終わらないこともあります)。ただし、ドローン空撮から得られる位置情報には多くの誤差が含まれていますから、正確なごみ堆積量を推定するにはその補正が必要です。そのため、海岸観測の際は、光波距離計を使った現地測量も同時に行っています(位置情報をリアルタイムに補正可能なReal Time Kinematicドローンも使用しています)。
次に、空撮によって得られた大量の写真と位置情報(緯度・経度・高さ)から、Structure from Motionという方法を使って、海岸の立体化を行います(動画1)。海岸の立体モデルの構築は、空撮した海岸をコンピューター上に再現することを意味しますから、一度海岸を撮影してしまえば、再度海岸に行かずとも、当時の状況を多角的に研究室内で観測することができるようになります。そして、海岸の立体モデル上で再現された漂着ごみを、海岸と漂着ごみの色情報を学習したAIを用いて特定することができれば(動画2)、その底面積と高さから漂着ごみの体積を推定することが可能となります。
最後に、この手法の精度ですが、体積が既知である擬似ごみを比較的平坦な砂浜海岸に設置し、我々の手法でその体積を測定することで評価しました。その結果、約5%の誤差で漂着ごみの体積推定が可能であることがわかりました。既存の方法(画像解析と人手によるごみ回収の組み合わせ)の精度は±35%程度ですから(Nakashima et al., 2011)、我々の手法は非常に高精度であるといえるでしょう。今後は、環境省や地方自治体等と協働して、この方法の精度検証、及び実証実験を全国各地の様々な形状の海岸で行う予定です。この手法が確立されれば、正確で且つ迅速なごみ堆積量の推定、効率的で経済的なごみ回収作業の策定、そして重点的なごみ回収海岸の選定などが行える様になるでしょう。我々が提案するこの手法の詳細は、Kako et al. (2020) に詳しく掲載されています。
謝辞 本研究は、環境研究総合推進費 戦略的研究開発SII-2の支援を受けています。
Derraik, J.G.B., 2002. The pollution of the marine environmental by plastic debris: A review. Marine Pollution Bulletin, 44, 842–852. https://doi.org/10.1016/s0025-326x(02)00220-5.
Kako, S., Isobe, A., Magome, S., 2012. Low altitude remote-sensing method to monitor marine and beach litter of various colors using a balloon equipped with a digital camera. Marine Pollution Bulletin, 64, 1156–1162. https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2012.03.024.
Kako, S. S. Morita, and T. Taneda, 2020. Estimation of plastic marine debris volumes on beaches using unmanned aerial vehicles and image processing based on deep learning. Marine Pollution Bulletin, Vol.155, 9p.
掲載大学 学部 |
鹿児島大学 工学部 | 鹿児島大学 工学部のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |