
2025年8月29日
中国地区
鳥取大学 工学部 社会システム土木系学科
教授 宮本 善和
過剰な農業生産は、気候変動、生物多様性、淡水利用、土地利用、生物地球化学的循環に多大な負荷をかけています。一方、増加傾向にある放棄農地の自然再生によって、生物多様性の回復、土壌汚染の改善、水循環の回復、気候変動の緩和など、地球環境の改善に貢献することが期待できます。日本の放棄農地は、昨今の米の需給バランスの問題を考えれば営農されることが望ましいのですが、中山間地ではアクセスが悪い、担い手や所有者が不在である、機械化しにくいなどが輻輳した場合には営農は困難となります。このような放棄農地の生物多様性を高め、地域にとって価値ある自然環境に転換することがネイチャーポジティブとして重要です。
このような中、わたしたちは、放棄農地の自然再生の事例調査を42サイトで行い数量化理論Ⅲ類による分析と、ハビタットの成因に作用する諸環境条件の連関を分析することで、農地の乾湿条件や人為的働きかけの有無によって、10タイプの自然再生の手法を類型化することに成功しています。そして、その適用のためのアプローチマップを開発しています(図-1)。10タイプとは、タイプA:池沼(図-2)、タイプB:水辺 林、タイプC:低茎湿地、タイプD:粗放水田、タイプE:凹 凸湿地、タイプF:山間湿地、タイプG:里山草地、タイプ H:潜在自然植生、タイプI :粗放草地、タイプJ:高茎湿地です。
事例調査の関係者からの聴き取り結果を質的テキスト分析し、自然再生の際に考慮すべき7項目の社会的条件も導出しています。それらは、Ⅰ:学習との関連、Ⅱ:立地条件と不便さとの関連、Ⅲ:観光との関連、Ⅳ:農業生産・管理との関連、Ⅴ:地域や企業との関連、Ⅵ:ネ イチャーポジティブ・グリーンインフラとの関連、Ⅶ:土地所有者との関連です。そして、これらの社会的条件の順位尺度を作成し、放棄農地の自然再生の10タイプを評価しています。
さらに、実際の放棄農地で環境調査を行い、植生の成立要因を分析した上で 自然再生の手法の適用について分析しています。植生、地下水位、地下水の水質、土壌特性を 調査し、その結果をもとに決定木分析を行い、植生の成立要因は地下水位と土壌のEC の程度によって説明できることを解明しました。これらを考慮し、地下水位による乾湿条件と人為的働きかけの程度、社会的条件も考慮した放棄農地の自然再生の適用のフローチャート(図-3)を作成するとともに、ガイドラインを開発し、放棄農地の自然再生を実務レベルに昇華させました。
これらの研究成果を用いて、地元の環境団体によってその自然環境の保全・再生と活用が期待されている岩手県西和賀町越中畑地区の放棄農地においてゾーニングを行い、イメージ図を作成し、そのアプローチの有効性を確認しています(図-4)。
今後は、越中畑地区の放棄農地の環境調査を継続して行い地下水位や水質、植生や環境の変化を捉える必要があると考えています。さらに、調査サイトを増やし複数のサイトで調査することで、よりアプローチを洗練させる予定です。また、自然再生した放棄農地に調整池や遊水地などの洪水緩和機能をもたせ、流域治水に援用できる方法論の開発を行っていきたいと考えています。
宮本善和・高畑晃子・日置佳之 (2024) 水源地域における放棄農地の自然再生の手法と適用、土木学会論文集、80巻、26号。
宮本善和 (2025) ダム水源地における撤退集落・農地の自然復元・再生に向けた参加・共創アプローチの方法論の開発 研究成果報告書、水源地環境センター。
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