2015年7月30日
東北地区
山形大学大学院 理工学研究科 微生物触媒工学応用講座教授
原 富次郎
食糧生産において植物が様々な病気に罹患すると、甚大な被害を受けることがあります。その原因は、主に糸状菌(カビ)や細菌(バクテリア)の感染によるものです。このような感染性病害には一般的に化学農薬を用いた防除がおこなわれます。しかし、化学農薬の常用は病害の防除をおこなうのみならず、深刻な土壌汚染を引き起こし、残留農薬は私たちの健康上のリスクを増大させると指摘されています。よって、近年の環境問題や安心で安全な食品に対する意識の高まりから、化学農薬の使用量をできるだけ減らす努力が求められており、世界的にも化学農薬と較べて環境へ悪影響を与えない防除法の確立が望まれています。そこで私たちは、山形県のバイオマス資源から取得した有用な微生物の力を活用し、環境にやさしく、これまでの手法とは全く異なったアプローチでの微生物創農薬に取り組んでいます。
土壌の中には植物にとって有益な微生物とそうでない微生物が棲息しています。有益な微生物には植物自体の成長を促す作用や、病原菌の生育を抑える作用などが知られています。私たちは植物にとって有益となる微生物の力を活かした防除法を研究しています。とりわけ植物病原カビの生育を抑える効果をもった微生物の選抜を繰り返し、多くの保存菌株を保有しています。
カビなどの真菌類の細胞は、エビやカニ、昆虫などの外殻を構成している糖鎖で細胞壁を形成し自らを護ります。また、カビは菌糸と云う糸状の構造を形成し菌糸体を作り、菌糸体は新たな細胞壁を作りながら生長します。この形態の形成でとりわけ重要な役割を演じているのが糖転移酵素や糖加水分解酵素です。これら酵素が交互に規則正しく作用することでカビは増殖します。私たちはこの糖加水分解酵素に着目して研究をおこなっています。山形県のバイオマス資源から取得した有用微生物株には、多様な糖加水分解酵素を作る能力があり、私たちはこれら微生物株から防除性に優れた糖加水分解酵素のゲノムを取り出し、遺伝子組換え技術を用いることで強力な防除効果を持った人工微生物を創り出そうと挑んでいます。さらにこの人工微生物をモデルに使うことで、自然界の微生物同士が繰り広げる生存競争の仕組みについても明らかにできるだろうと考えています。
本研究の進展とともに、病原性カビの細胞壁の役割や挙動がより詳細に解明され、効果的な防除において役立つことが期待されます。また、このような技術を実用化に導くバイオベンチャー設立も目指しており、私たちは自然を守り、安全な食糧を安定供給できる一技術を確立し、社会へ貢献したいと考えています。
掲載大学 学部 |
山形大学 工学部 | 山形大学 工学部のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |