資源循環型社会構築のためのレアメタル分離剤開発 |
小資源国であり先端材料開発の盛んな日本にとって、金属資源の確保は重要です。金属分離の湿式精錬法として、浮選、電解、沈殿分離、溶媒抽出、イオン交換などがあり、各技術に対応し必要な分離剤が開発されてきました。佐賀大学大学院工学系研究科化学系の化学工学研究室では、金属資源循環をテーマに掲げ、主として溶媒抽出法とイオン交換法に対応する新規の金属分離剤開発を行ってきました。従来の市販工業用分離剤に対し、例えば、対象金属に対する取り込み部位がその大きさに適合した特殊な構造を有するテーラーメイド型抽出試薬やバイオマス廃棄物を原料として合成された吸着剤などです。本分野においてバイオマスは生物由来の資源であり、バイオマス廃棄物とは例えば各種果汁の搾りカス、柿や栗の皮、海藻廃棄物、甲殻類の殻などが挙げられます。バイオマス廃棄物に含まれる成分は、一般的には複数の多糖類、ポリフェノール類やタンパク質等から構成されており、何に由来するかに大きく依存します。図1に主なバイオマス廃棄物とその主成分を示します。バイオマス廃棄物を分離剤として利用する長所は、生物由来の資源、かつ廃棄物を再利用する点で環境に有利でありコスト面でも有利であること、などがあります。また、短所は、基本的には混合物であること、季節・地域性により成分や供給が一定でないこと、などがあります。したがって、特定の金属に高選択性を示す成分があればそのような金属の分離に、また中間処理として類似の成分群を分離(群分離)するのに適しています。
一方、テーラーメイド型化合物は、例えば当研究室では図2に示すカリックスアレーンと呼ばれる大環状ホスト化合物やトリメチロールと呼ばれる三脚状化合物を基体として適宜化学修飾を施し、対象金属の分離に適した分子を合成します。これら分子の最大の特長は、特定の配位空間を提供するため、優れたサイズ認識機能を示す点です。例えば、図2のカリックス[4]アレーンはアルカリ金属の中でナトリウムに高選択性を示しますし、トリメチロール化合物ではリチウムに高選択性を示します。これらテーラーメイド型化合物を分離剤として利用する際の長所は、上述のサイズ認識効果が期待できること、純化学合成であり純品(単一成分)であること、などが挙げられます。また、短所は、従来の分離剤と比較してコストがかかること、開発に時間がかかること、などが挙げられます。
テーラーメイド型分離剤の分子設計はもちろん仕立て服作りの要領で行います。まず、要望を確認し、目的を明らかにした上で、必要な情報を入手します。これに基づき、分離手法や分離剤を決定します。従来の分離剤で十分分離できるようであれば、以後の作業は必要ありませんが、さらに高度な個別分離が要求される場合には、分離剤の素材やサイズを選定し、また対象金属との相性を考慮した官能基などの選定による最適化が必要となります。図3にテーラーメイド型分離剤の分子設計と開発手法を示す。このように化学的親和性と構造効果を相乗させることで新規の高効率分離剤を開発しています。
この他にも、当研究室では酵素反応を利用した新規ポリマーや温度によって形態や機能を制御できるゲルを吸着剤として利用する研究も行っています。これらの化合物は、レアメタル回収のみならず、放射性元素やその他の有害元素の除去などにも有効です。
大渡啓介、井上勝利、
『リサイクル・廃棄物事典』、
5編近未来技術の開発と可能性、産業調査会428-429, 475 (2012).
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