2023年1月13日
関東地区
群馬大学 理工学部
たとえば、ポリエチレン、ポリスチレン、PETなどに代表されるように、高分子材料は様々な場面・用途で用いられる最も重要な有機材料です。ところで、現在のところ、身の回りに欠かせない高分子材料の多くは石油化学工業由来であり、その環境負荷が徐々に問題視されるようになっています。したがって現在では、持続成長可能性(SDGs)の観点を考慮した材料科学の発展が強く望まれています。このような材料開発を達成するためには、さまざまな可能性がありますが、とりわけ生物由来原料として木質系バイオマスの化学的活用が重要課題として認識されています。これは木質系バイオマスが、その構造複雑さから、化学的活用が立ち遅れていているためです。われわれはこのような観点から、木質系バイオマスの化学的特徴をうまく引き出す材料研究をおこなっています。
ところで、木質系バイオマスとはどんな物質でしょうか?簡単にその化学組成について触れます(図1)。木質系バイオマスは別名リグノセルロースと呼ばれ、その主要成分は、芳香族ポリマーであるリグニンと多糖であるセルロースおよびヘミセルロースに大別できます。まず、セルロースは歴史的にも重要な膜材料であり、一般的には“パルプ(紙)“として利用される機会が多い生物由来材料です。一方で、リグニンは非常に複雑な構造をしている芳香族ポリマーです。リグニンはその不均一さや低反応性さから、材料として用いられることは少ない成分です。リグニンそのものを材料として用いることは難しいですが、リグニンは芳香族アルデヒドであるバニリンおよびシリンガアルデヒドに分解可能であることが知られています。これらのリグニン誘導体は高い反応性のアルデヒド基を有しているため、様々な化学変換に活用可能です。われわれは、バニリンやシリンガアルデヒドを活用した高分子材料を合成できるのでは?との考えで、生物由来ポリマーを合成しています。
われわれは実際に、バニリンを有する反応性高分子としてポリメタクリルバニリン(PMV)を生物由来ポリマーとして設計・合成しました。非常におもしろいことに、バニリンのアルデヒド基を足掛かりとして、PMVという高分子材料に様々な機能性をあたえることができ、色々な特性をもった高分子材料に変換可能であることをあきらかにしています。具体的には、多成分連結反応の一種であるPasserini反応やKabachnik-Fields反応をPMVの修飾反応に対して適用可能でした。
つづいて、木質系バイオマスを全体としてうまく材料化できないか?という観点での研究もおこなっています。上でも述べましたが、セルロースは歴史的にも重要な膜材料です。もし、リグニン誘導体をセルロース膜に再度固定化できれば、木質系バイオマスの再構築になります。このような観点から、我々は群馬県ならではのアプローチで研究をおこなっています。これは、群馬県高崎市に所在する量子科学技術研究開発機構 高崎量子応用研究所(QST)との共同研究で達成しています。QSTは有機材料の膜表面を化学変換可能な“放射線グラフト重合技術”に強みがあります。われわれは、QSTの研究グループ(瀬古プロジェクトリーダー)と共同で、放射線グラフト重合技術によりセルロース膜表面へのPMVの固定化に世界に先駆けて成功しました。このように作成した膜材料は、その膜表面にバイオ由来機能性物質を導入可能であることも見出しています(図3)。以上、木質系バイオマスの化学組成を人工的に組み替えることで機能性材料が合成できるようになっています。
上記のように、われわれは木質系バイオマスから有機材料を生みだしています。今後、SDGsの重要性がより大きくなることを考えると、より環境低負荷な材料合成法や生物由来だからこその機能性の発現につなげていけるように研究に取り組んでいます。
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