2015年4月7日
信越・北陸地区
福井大学 大学院
工学系研究科
吉田伸治
都市化の進行に伴う土地被覆の改変、空調・エネルギー消費量の増大による建物外部への排熱量の増加に伴い、夏季の屋外空間の温熱環境は劣悪化の一途を辿っており、これを和らげるため、植栽・街路表面被覆の変更に基づく多くの対策が提案されています。これらの対策の実現が不可欠であることは明らかですが、多くの時間・コストが必要です。そのため、これらの対策と並行して、都市生活者(屋外の場合は歩行者)各々が自らの行動を工夫・配慮することにより暑熱環境に適応する(自分の身は自分で守る)ことも求められます。暑熱環境への行動的適応としては、例えば、①歩行経路を変える(東西道路の歩道でも日射しの多い北側歩道を避け、建物の影に入る南側歩道を歩く)、②交差点で信号青に変わるのを日影で待つ、等考えられますが、この様な何気ない行動選択の違いが、歩行者の温熱快適性、生理的負担をどの程度和らげるのか、という点については十分分かってないのが現状です。
そこで、これら行動的適応の効果を、人間の温熱生理メカニズムをモデル化した「多分割人体体温調節モデル」と、屋外空間の気流・温湿度・放射熱環境等の環境要素の空間分布を分析する「屋外温熱環境CFD 解析手法[CFD: 数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)の略]」を連成した新たな環境評価技術[文1](図1)を用いて分析する研究に取り組んでいます。
分析の一例として、本稿では、交差点での信号待ちの場所の違いの影響の分析例[文2]を紹介します。図2に示す様な均等街区(東京新橋の街区情報データを基にモデル化)における7月下旬の14時頃の街区レベル(高さ1.2m)における風速ベクトルの水平分布、地表面温度分布を各々図3、図4に示します。図4において、街路両脇に沿う様に一定の間隔で並ぶ約40℃程度の低温域が見られますが、これらはケヤキの街路樹(図2)の樹冠下にできる日影の影響により生じたものです。歩行者が東西街路北側歩道を西から東へと4区画(約1km)歩行した場合の歩行者皮膚温、コア温(深部体温)、累積発汗量の時間変化を図5に示します。この図において、Case0は街路樹が全く植栽されない歩道を歩行した場合、Case1は街路樹が植栽された街路を歩行するものの、信号待ちの場所を日向とした場合、最後にCase2は信号待ちを交差点手前の緑陰で行う場合における解析結果を表しています。平均皮膚温度についてはCase0、Case1では信号待ちの際に急激な皮膚温上昇がみられますが、Case2では一定若しくは若干低下する傾向がみられます。これは緑陰での信号待ちによる放射環境の緩和が大きく表れた結果です。深部体温については、信号待ちを迎える毎に徐々にケース間の差が拡がる傾向がみられます。累積分泌発汗量については、歩行終了時の値がCase0で約126g、Case1で約114g、Case2で約97gの値を示しており、この結果より、歩行者の生理的負担は、街路樹設置(Case1→Case2)により約1割削減、緑陰信号待ちの工夫(Case2→Case3)により約15%削減することがわかります。
最後に生理的負担と快適感の関係を評価するため、横軸に累積発汗量、縦軸に温熱快適性の代表的評価尺度のひとつである新標準有効温度SET*[文3]の経路内平均値を各々取ったものを図6に示します。これを見ると、街路樹設置(Case1→Case2)により生理的負担が約1割削減、体感温度が1.2℃低下、緑陰信号待ち(Case2→Case3)により生理的負担が約1.5割削減、体感温度が2.4℃低下する傾向が見られることがわかります。以上より、街路環境整備以上に歩行者個々の自発的な適応行動が重要であることがわかります。
今後も提案する屋外温熱環境評価技術を用いて、多様な歩行者の行動適応行動の評価、並びに新たな環境緩和のための建築計画・設計に基づく対策技術の評価などを行う予定です。
参考文献
掲載大学 学部 |
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