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環境への取り組み

“目で見る” 地球温暖化の影響

関西地区

2024年9月13日
関西地区

和歌山大学 システム工学部

はじめに

 地球温暖化は人類が抱えた大きな危機、問題です。人間が出す二酸化炭素などの温室効果ガスの濃度が高すぎて、太陽エネルギーで温められた熱が大気の中に閉じ込められ宇宙に放出されないために、地球の平均気温が高くなってしまう現象です。地球が温暖化すると、気候が変わり、温帯であるはずの日本でも、夏の最高気温が過去になかったほどにまで暑くなったり、冬に雪が降らなくなったりします。海水温の上昇で台風が大型化したり、たくさん発生したりして、災害が増えることも心配されます。他にも、場所によっては雨が降らない時期が長くなったりして、農作物が不作になり、物価が上がったりします。熱帯の危険な生物が日本にすみつくかも知れません。これまでなかったような伝染病が増えるかも知れません。夏の高温化で熱中症になる人が増えるかも知れません。

 そんな地球温暖化ですが、夏の暑さや冬の温かさなどは分かりやすい影響のひとつですが、その他のことで温暖化の影響を感じることはできるでしょうか? 災害などの後になって「地球温暖化の影響だったかも知れない」と知ることはありますが、日常生活の中で実感することは、意外に少ないものです。

 そこで、ここでは、みなさんが地球温暖化を防止しようという気持ちになってくれれば、ということで、気温以外でも地球温暖化の影響を簡単に知ることができる方法を解説します。

サクラの季節外れの開花「不時開花」をみる

 台風の後や、夏の高温乾燥で、サクラの葉が落ちてしまうことがあります。その後をしばらく観察していると、春に咲くはずのサクラの一部の花が秋に咲くことがあります。これは不時開花という季節外れの開花現象です。不時開花が見られることで、得した気分になると言う人もいますが、花芽の発育途中で開花してしまったために花の形が不完全だったりすることも多いですし、本来は春に咲くはずだった蕾(花芽ははめ)が秋に咲いてしまうのですから、翌春の開花できる花芽の数は、その分だけ減りますから、春の満開感は得られません。また、不時開花によって樹勢(じゅせい、木の元気さ)が弱くなることもあります。このように、不時開花は、樹木にとっては困った現象なのです。

台風で一部の葉を失って不時開花してしまったサクラ(ソメイヨシノ)台風で一部の葉を失って
不時開花してしまったサクラ(ソメイヨシノ)
不時開花では不完全な花が多い(右は雌しべ雄しべが無く、左は花びらすら無い)不時開花では不完全な花が多い
(右は雌しべ雄しべが無く、左は花びらすら無い)

 サクラのような樹木の花は、その多くが夏の初めころに、来年の春に咲く花の蕾を作り始めます。花芽(はなめ)分化といいます。花芽は、早い段階で芽の外側の皮「芽鱗(がりん)」を形成し、芽鱗の中で花びらや、雌しべ、雄しべの元などを徐々に形成し、花芽の内部は発達します。その後、夏の終りころから、不完全なものの、花芽は開いて開花することができる状態にまでに育ちます。ただし、まだ、開花することはありません。

 それは、葉が近くの花芽に開花抑制物質を送り「まだ開花するな」と司令を出しているからです。秋は、まだ暖かいですから開花することができる気温条件にはあります。ですが、秋に何らかの理由で葉を失い、「まだ開花するな」の司令が途絶えたために開花してしまうと、その後、実になり、種を作ることができません。寒くなっていくからです。これでは、樹木は子孫を残すことができません。樹勢も弱まります。それを防いでいるのは葉なのです。温暖化で、夏が暑すぎて葉が枯れることが増えるかも知れません。台風の増加で葉が引きちぎられて落ちることが増えるかも知れません。その結果、不時開花が増えることになるわけです。不時開花は、樹木にとっては生き死に関わる困った現象で、葉は不時開花を抑制して木を守っているのです。

 皆さんの周りに多くあるソメイヨシノというサクラは、人間が鑑賞目的で改良してできたもので、開花しても実ができないか、実ができてもほとんど発芽しない種しかできない園芸品種ですから、もともと子孫を残せません。このため、ソメイヨシノが不時開花しても子孫を残すことには影響しないのですが、翌春の満開感は失われますから、鑑賞ということにおいても不時開花は困った現象なのです。ちなみに、ソメイヨシノは、種をまいて増やすのではなく、接ぎ木という方法で増やしています。

 一方では、十月桜や寒桜(かんざくら)という、秋から冬に開花するサクラの園芸品種もあります。これは、秋に葉が簡単な刺激で落ちやすく、その後に開花してくるもので、不時開花が起こりやすい園芸品種になります。ただ、花芽の中の発育も進んでいる秋の終わり頃に不時開花するので、奇形の花は少なく、季節外れの開花を楽しむことができるとされています。なお、十月桜でも、秋までに葉が落ちなければ、一般的なサクラと同じように翌春に咲きます。

季節外れに咲くことで知られる十月桜、不時開花が起こりやすい品種のひとつ

 また、三重県鈴鹿市には「不断桜(ふだんざくら)」という名前の、真夏以外の時期に枝のあちらこちらに、ちらほらと花をつけ、四季を通じて花が咲く園芸品種のサクラがあります。不断桜は、十月桜よりも1年を通じて葉が落ちやすく、秋から冬の初めまでは不時開花を、冬はあまり咲かないのですが、春には普通の開花をするというサクラです。真夏に開花が見られないのは、まだ花芽が未熟すぎて開花できない、ということです。この不断桜ですが、木が歳をとってきたために弱ってしまい、それを元気にする、人間で言うところの治療を行ったことがあります。その結果、木は元気になったのですが、今度は元気になり過ぎて、簡単には葉が落ちなくなり、春には満開になるものの、それ以外の季節に花が咲かなくなったことがありました。不断桜じゃなくなってしまったのです。現在は、昔ほどは「1年中咲いている」という状態になってはいませんが、それでも、春以外の季節にちらほら咲く、不断桜に戻っています。

 以上のように、サクラに限らず、樹木の開花を観察していると、特に不時開花を通じて地球温暖化の影響を知ることができます。ですから、日頃から開花を観察してみてください。そうしていると、季節のうつろいを楽しむこともできますので、一石二鳥ですね。

落葉樹の葉が落ちない?

 落葉樹は、秋になると紅葉し、その後、落葉するのが普通の季節変化です。それは、冬に向かって日が短くなり、気温が下がってくると、葉の付け根の細胞がコルク質の「離層(りそう)」に変化し、離層が徐々に発達すると、葉への水の移動を離層が邪魔し、葉は緩やかに乾燥して紅葉し、やがて少し水分を含んだ状態の紅葉した色の葉のまま離層からホロリと落葉します。離層が発達しているかどうかを確認する方法は簡単です。葉を指でつまんで、やさしく下に引いてみてください。簡単に葉が外れれば、離層が発達しているということになります。

 ところが、温暖化すると、この離層が発達できなくなります。すると、葉は、枝についたままの状態で寿命を迎え、汚く紅葉し、また、落葉もできなくなります。極端だと茶色に変色した死んだ状態の葉が春まで枝についてしまうこともでてきます。この場合でも、春になると、葉の付け根の「葉芽(はめ)」が膨らみ、新しい枝を伸ばしますから、その際の圧力で葉は強制的に枝から切り離されます。

和歌山大学にある「人工気象室」で気温を温めてコナラ(ドングリの木)を育てたら、温暖化させた条件では春になっても落葉しなかった和歌山大学にある「人工気象室」で気温を温めてコナラ(ドングリの木)を育てたら、
温暖化させた条件では春になっても落葉しなかった

 秋になったら、公園などに行って、紅葉や落葉の様子を観察していてください。茶色い葉が枝についたままの木があったら、離層が発達しているかどうか、葉を指でつまんで下にやさしく引いてみてください。ホロリと落ちたら正常です。しかし、強く引っ張らないと葉を枝から離せない場合は、温暖化の影響が疑われます。なお、離層の発達は、気温だけでなく、日の長さも影響しますから、街路灯など照明の近くの木は紅葉が遅れたり、落葉しなかったりします。ですから、温暖化の影響を知りたい場合は、照明から離れた場所の木を対象に観察すると良いでしょう。

 一方、落葉には離層から脱落しない落葉もあります。強風が吹くと、強制的に引きちぎられる場合です。まだ緑の葉だって、台風の際にはたくさん落葉します。冬の強風が茶色の葉を強制落葉させた場合、遠目では普通の落葉と区別がつきません。その場合は、近くに行って観察してみてください。離層から落葉した場合は、写真のような葉痕(ようこん)が確認できます。強風で強制的に引きちぎられた場合は、葉の軸の途中から切れていますから、通常の落葉か、そうでないかを区別できます。

離層(りそう)が発達してないのに強風などで落葉した場合、葉の軸の途中で引きちぎられていることが多い離層(りそう)が発達してないのに
強風などで落葉した場合、
葉の軸の途中で引きちぎられていることが多い
離層(りそう)から落葉すると、葉痕(ようこん)が見られる離層(りそう)から落葉すると、
葉痕(ようこん)が見られる

 なお、この葉痕ですが、樹木の種類によって様々な形があり、中には羊の顔に見えるようなものがあったりして、葉痕を観察することだけでも楽しい時間になりますので、ぜひ観察してみてください。虫眼鏡を持っていくと良いでしょうし、最近では、スマホのカメラ機能でも拡大して観察できます。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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