はじめに
一般に分子量の小さい分子(モノマー)を化学反応で反応させて数千分子つなげたものを高分子(ポリマー)と言います。一部のポリマーは固い材料となり、プラスチックとも呼ばれています。つながっているモノマーの数を変えたり、つながり方を変えたり、ポリマーの鎖を途中でつなげたりすると、同じモノマーから作ったポリマーでも性質が違ったものが出来ます。ポリマーを作るときの化学反応を「重合」と呼んでいます。いろんな化学反応で重合が行われています。
身の回りにはいろんな高分子があります。たとえば、ラップフィルムのポリエチレン、水道配管の塩化ビニル、自動車のダッシュボードのポリプロピレン、ソファーのポリウレタン、お母さんのマニキュア、ペンキ、ビニールテープなど私達の身の回りに多くあり、生活を支えています。また、食べ物や植物、私達の体に関係しているものとしては、デンプン(グルコース)、セルロース(グルコース)、タンパク質や遺伝子(DNA)など非常に多くのものがあり、生き物は高分子で出来ていると言って過言ではありません。
N-イソプロピルアクリルアミドというモノマーが鎖状につながって、鎖のところどころを架橋剤と呼ばれる分子で鎖どおしをつないぐとゲルが出来ます。(図1)
ゲルが温度を感じるには、ゲルを作っているポリマー鎖から横に出ている部分(側鎖という)にある疎水性(水を嫌う性質)のイソプロピル基が重要な役割を持っています。(図2)イソプロピル基の根元のアミド結合の部分は、親水性(水が好きで水に溶ける性質)であるので、架橋したポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)は水の中で膨潤してゼリー状のゲルになります。イソプロピル基部分は水が嫌いで低温ではできるだけ水との接触が少ない状態で、イソプロピル基の周りに少量の動かない水(固まった水)を身にまとい潜んでいます。温度が上がると、イソプロピル基が身にまとった固まった水の動きが激しくなりイソプロピル基から離れてしまって、イソプロピル基は裸の状態になってしまう。イソプロピル基はたくさんの嫌いな水分子から身をさけるために、イソプロピル基同士で集まろうしとして、高分子の立体構造(ポリマーネットワーク)が劇的に変化して、身を縮めた状態になる。このため、架橋したポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のゲルは温度上昇で、ゲルの体積の収縮と濁りが観察できる。このような状態の変化を「相転移」と呼びます。ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)のゲルの相転移の起こる温度はおよそ「体温」くらいです。
図1 架橋剤の働き
図2 ポリ
(N-イソプロプルアクリルアミド)
実験(実験するときは手袋、保護メガネ、白衣を着用しましょう。)
準備するもの
- N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm、モノマー)
- N、N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAAm、架橋剤)
- 過硫酸アンモニウム(AP、重合開始剤)
- N、N、N’N’−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED、重合開始剤)
- 蒸留水
- 30mLスクリュー栓付きサンプル管
- 温度計
- ミクロスパーテル
- マイクロピペッター
- 保護メガネ
- 手袋
注意点
実験に用いる試薬の入手や取扱いは学校の理科の先生に必ず相談して一緒に実験してください。
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ゲルの合成
- サンプル管にN−イソプロピルアクリルアミド0.50 gとN、N’−メチレンビスアクリルアミド0.10gを入れる。(N、N’−メチレンビスアクリルアミドの使用量を変えると得られるゲルの性質が変わります)サンプル管に、蒸留水10mlをメスシリンダーではかりとって入れて、栓をしてよく振り混ぜて溶かす。
- 全体が溶けたら、ミクロスパーテルで過硫酸アンモニウムを二杯入れ溶かす。
- 溶液を、氷水で冷す。(凍らす、室温のまま、40−60℃に加熱など重合の条件を変化させてから⑤の操作に進んでも良い。)
- N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン70μℓをピペッターでとり、それぞれのサンプル管の溶液に加え、瓶を少し振り、全体をよく混ぜる。
- 平らな場所に置き、溶液の様子を観察する。その後、次の実験までそのままにしておく。
架橋ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ゲルの性質を調べよう
- サンプル管の蓋を開け、出来たゲルとサンプル管の内壁の間にミクロスパーテルの平らな方をいれてゲルと内壁をはがす。ゲルと内壁との間を全てはがす。ゲルを壊さないように慎重にあつかう。
- 蒸留水を約10ml加え、蒸留水が全体にいきわたるようにサンプル管を傾けたり回転させる。
- 水を捨て、再度蒸留水を加えてゲルを洗う操作を2、3回繰り返す。廃液はタンクに貯めて処理をお願いしましょう。
- 出来たゲルの感触を確かめる(必ず手袋着用のこと)。
- サンプル管にお湯を入れる。どの様な変化が起こるかよく観察し、ゲルの感触を確かめる。
- サンプル管のお湯を廃液のビーカーへ入れる。ゲルを蒸留水で洗う。
- サンプル管に氷水を入れる。どの様な変化が起こるかよく観察し、ゲルの感触を確かめる。
- サンプル管の水を廃液のビーカーへ入れる。ゲルを蒸留水で洗う。
- ⑤から⑦を繰り返して変化を確かめる。
このときゲルにはっきりと体積変化が観察される場合は、ゲルの寸法を定規で測り、体積変化を計算する。定規を横に置いて写真をとって比較しても良い。
- 架橋剤のN、N’−メチレンビスアクリルアミドの量や反応させる温度でゲルの性質が変わるかどうか確かめてみよう。
調製したゲル (左: 架橋剤標準量、右: 架橋剤を少量使用)
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(溶液)の合成
- サンプル管にN−イソプロピルアクリルアミド0.50 gを入れる。
- サンプル管に、蒸留水10mlをメスシリンダーではかりとって入れて、栓をしてよく振り混ぜて溶かす。
- 全体が溶けたら、ミクロスパーテルで過硫酸アンモニウムを二杯入れ溶かす。
- 溶液を、氷水で冷す。(凍らす、室温のまま、40−60℃に加熱など重合の条件を変化させてから⑤の操作に進んでも良い。)
- N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン70μℓをピペッターでとり、それぞれのサンプル管の溶液に加え、瓶を少し振り、全体をよく混ぜる。
- 平らな場所に置き、溶液の様子を観察する。その後、次の実験までそのままにしておく。
ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(溶液)の性質を調べよう
- サンプル管ごと50℃ぐらいのにお湯を入れる。どの様な変化が起こるかよく観察する。
- 沈殿が分離してくるのでそのまま静かに置いておく。サンプル管のフタを開け、サンプル管を傾けて水だけを捨てる。
- サンプル管に新しい蒸留水を約10ml加えて沈殿を溶かす。
- ①〜③の操作を3〜5回繰り返す。廃液はタンクに貯めて処理をお願いしましょう。
- サンプル管に新しい蒸留水を約10ml加えて沈殿を溶かす。
- サンプル管の中のポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(溶液)が何℃で白濁するかを調べる。
- ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(溶液)が入っているサンプル管に温度計を入れて、サンプル管ごと湯煎でゆっくりと加熱しながら温度を測定する。
- 溶液が白濁した温度を記録する。
- 白濁した状態で湯煎から出し、室温でゆっくりと冷却しながら温度を測定する。
- 溶液が透明となる温度を記録する。
- ⑦から⑩を繰り返して変化を確かめる。
- 反応させるN−イソプロピルアクリルアミドの量や反応温度を変えて沈殿をつくる温度が変わるか確かめてみよう。
温度による変化(架橋していないポリNIPPAM)
注意点
作ったポリマー溶液やゲル、ゲルに触れた水を絶対に口に入れたりしないようにしてください。
ゲルを素手で触った場合は、石けんで手を良く洗ってください。
捨てる場合は、新聞紙に包んで燃えるゴミとして捨ててください。
※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。