将来の天然ガス資源として期待される海底表層型「メタンハイドレート*1」 ですが、北見工業大学環境・エネルギー研究推進センターは、2020年11月に行った十勝沖太平洋における調査(図1)で、重力式コアラー*2(図2)により水深935mの海底において表層型メタンハイドレートの採取に成功しました。今回の調査において採取されたメタンハイドレートを分析した結果、結晶に含まれるガスの99%以上が、メタン生成菌によって作られたメタンであることなどがわかりました。
北海道周辺海域ではこれまで網走沖オホーツク海で表層型メタンハイドレートが採取されており、今回はそれに次ぐ採取成功となりましたが、その他、日高沖などにも存在が示唆される地質構造が確認されています。
従来メタンからの水素の生成には二酸化炭素の発生を伴うことが「脱炭素」の観点から課題となっていましたが、北見工業大学ではこれまでに「メタン-水素化反応」用の触媒を開発しており、この触媒を用いて、今回採取した表層型メタンハイドレートから、二酸化炭素の発生を伴わない水素生成に成功しました。
さらに、メタンを構成する炭素からは、利用価値の高いカーボンナノチューブ*3を回収することもできました(図4)。
メタンハイドレートは自国で賄える貴重な水素原料となり得ることから、実際に天然環境から採取した表層型メタンハイドレートから取り出したメタンを使い、二酸化炭素を発生させず、水素とカーボンナノチューブが生成できた意義は大きく、この成果を社会実装できれば、日本周辺海域のメタンハイドレートの開発や得られる天然ガスを用いた「脱炭素社会」「水素社会」の構築に向けた取組が加速することが期待できます。
*1表層型メタンハイドレート
メタンハイドレートは、水分子が作るカゴ状のフレーム内部にメタン分子を閉じこめた結晶。特に海底付近に存在するものを「表層型」と呼称する。
*2重力式コアラー
重錘部と採泥管部から構成される。海底面から自由落下させ、海底地盤に貫入させ、2重管式の採泥管の内管から海底堆積物を回収することができる。
*3カーボンナノチューブ
リチウムイオン電池、キャパシタ、伝導性繊維、強化樹脂、ドラックデリバリー担体、透明導電膜などへの応用研究が進んでいる次世代の炭素素材。
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