トップページ > なんでも探検隊 > メタンハイドレート~脱炭素社会の実現に向けて~

なんでも探検隊

メタンハイドレート~脱炭素社会の実現に向けて~

2021年5月28日
北見工業大学 工学部

北海道周辺海域に眠るエネルギー資源

 将来の天然ガス資源として期待される海底表層型「メタンハイドレート*1」 ですが、北見工業大学環境・エネルギー研究推進センターは、2020年11月に行った十勝沖太平洋における調査(図1)で、重力式コアラー*2(図2)により水深935mの海底において表層型メタンハイドレートの採取に成功しました。今回の調査において採取されたメタンハイドレートを分析した結果、結晶に含まれるガスの99%以上が、メタン生成菌によって作られたメタンであることなどがわかりました。

 北海道周辺海域ではこれまで網走沖オホーツク海で表層型メタンハイドレートが採取されており、今回はそれに次ぐ採取成功となりましたが、その他、日高沖などにも存在が示唆される地質構造が確認されています。

図1調査海域(国土地理院地図に加筆)図1 調査海域(国土地理院地図に加筆)
図2メタンハイドレートの採取に用いた重力式コアラー図2 メタンハイドレートの採取に用いた重力式コアラー

脱炭素社会・水素社会の未来へ

 従来メタンからの水素の生成には二酸化炭素の発生を伴うことが「脱炭素」の観点から課題となっていましたが、北見工業大学ではこれまでに「メタン-水素化反応」用の触媒を開発しており、この触媒を用いて、今回採取した表層型メタンハイドレートから、二酸化炭素の発生を伴わない水素生成に成功しました。

 さらに、メタンを構成する炭素からは、利用価値の高いカーボンナノチューブ*3を回収することもできました(図4)。

 メタンハイドレートは自国で賄える貴重な水素原料となり得ることから、実際に天然環境から採取した表層型メタンハイドレートから取り出したメタンを使い、二酸化炭素を発生させず、水素とカーボンナノチューブが生成できた意義は大きく、この成果を社会実装できれば、日本周辺海域のメタンハイドレートの開発や得られる天然ガスを用いた「脱炭素社会」「水素社会」の構築に向けた取組が加速することが期待できます。

図3今回の調査で採取された表層型メタンハイドレート塊図3 今回の調査で採取された表層型メタンハイドレート塊
図4水素生成に同時に生成されたカーボンナノチューブ塊図4 水素生成に同時に生成されたカーボンナノチューブ塊

*1表層型メタンハイドレート
メタンハイドレートは、水分子が作るカゴ状のフレーム内部にメタン分子を閉じこめた結晶。特に海底付近に存在するものを「表層型」と呼称する。

*2重力式コアラー
重錘部と採泥管部から構成される。海底面から自由落下させ、海底地盤に貫入させ、2重管式の採泥管の内管から海底堆積物を回収することができる。

*3カーボンナノチューブ
リチウムイオン電池、キャパシタ、伝導性繊維、強化樹脂、ドラックデリバリー担体、透明導電膜などへの応用研究が進んでいる次世代の炭素素材。

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

関連記事

2024-04-05

工学ホットニュース

自然の恵み「地熱エネルギー」

秋田大学国際資源学部

2018-02-08

生レポート!卒業生の声

時代に求められるエネルギーをつくる

岐阜大学工学部

2016-12-27

Pict-Labo

4次元MRI

千葉大学工学部

2010-09-17

なんでも探検隊

海底・湖底表層のメタンハイドレート -包有ガスの起源解析-

北見工業大学工学部

2021-03-19

環境への取り組み

再生可能エネルギー分野への気象・気候情報の応用

弘前大学理工学部

2020-07-03

環境への取り組み

水圏環境における微量金属測定

金沢大学理工学域

北見工業大学
工学部

  • 地球環境工学科
  • 地域未来デザイン工学科

学校記事一覧

なんでも探検隊
バックナンバー

このサイトは、国立大学56工学系学部長会議が運営しています。
(>>会員用ページ)
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。
これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。