2020年7月3日
信越・北陸地区
金沢大学理工学域物質化学類
海水には様々な物質が溶けています。ナトリウムやマグネシウム、塩素といった主要元素だけではなく、周期表に載っているほぼ全ての元素が海水中に存在しています。主要元素は濃度が高く、一般的に“塩”として知られており、どこの海水を採取しても同じ濃度で含まれています。一方、主要元素以外の元素は海水中で濃度が低く微量元素と呼ばれており、濃度レベルや分布がわかっていない元素がいくつかあります。特に白金や金、パラジウムといった貴金属元素は濃度レベルが極端に低いことから極微量元素として扱われ、最近まで分析方法すら確立できていない状況でした。
そもそも、白金やパラジウムといった白金族元素は指輪やネックレス等アクセサリーに用いられているため、宝飾品としての需要が多いと思われています。しかし実際には、自動車触媒や抗ガン剤のシスプラチンなど工業的に幅広く利用されています(Fig. 1)。自動車触媒は、白金需要の約半分を占めており、工業目的の白金は全需要量の7割にものぼります。そのため、都市域を中心に人為的影響が指摘されており、濃度分布の解明が求められていました。
そこで水圏環境中においてpptレベル(10-15)で存在している白金族元素を分析する方法を確立し、海水や河川水、河口域の汽水等様々な場所で水を採取し測定を行いました。採水にはニスキン採水器と呼ばれる特殊な器具を用いて行い、外洋海水は学術研究船白鳳丸、沿岸海水は長崎大学の鶴洋丸や東京大学の弥生といった小型船に乗船して採取しました(Fig. 2)。極微量元素を測定するため、使用する器具は全てクリーン洗浄し、コンタミ(汚染)に最大限に注意をしながら採水しました。白金濃度分析には、同位体希釈-ICP質量分析法を用い、陰イオン交換樹脂で試料溶液を濃縮することで、高精度・高感度な分析を可能にしました。
外洋海水中では白金は約0.2 pmol/Lとどこの海域で測定してもほぼ一定の濃度で検出されました。一方、陸に近い沿岸域では、外洋海水の約10倍の濃度が、さらに都市域である東京湾に流れ込む河川水中では100倍近い白金が検出されたところがありました。Fig. 3は濃度分布の一例です。房総半島沖では陸に近い測点(T2)の方が、陸から離れている測点(T3)よりも濃度が高く、全体的に外洋海水よりも高濃度が検出されました。また関東平野を流れる多摩川や荒川の河川水を調べたところ、下流で急激に濃度が上昇していることが確認されました。白金はもともと陸起源物質なため、外洋より沿岸域で濃度が高くなることは自然由来でもあり得るのですが、都市域の河川水で極端に濃度が高くなるのは人為的影響によるものです。
白金をはじめとした白金族元素は資源としての価値が高く、再利用することが求められています。都市域の水圏環境で濃度が高いのであれば、水から金属を回収する技術の開発につながります。これまでの研究では、白金族元素の分析方法を確立するとともに、濃度分布を報告し、人為的影響を解明しました。今後はその成果を活用して白金族元素の再利用の可能性を探っていきます。
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