日本の多くの水道水の源、つまり水源は河川やダム湖ですが、これらの水は自然水ですので少し濁っており透明ではありません。雨の日には土砂が流入し褐色に濁ったり、夏場に植物プランクトンが増殖し緑色に濁っている場合も多いでしょう。しかし、水道の蛇口からはいつも透明な水が出てきます。水道水を供給している浄水場では、どのような方法で澄んだ水を多量に造っているのでしょうか。図1は浄水場の仕組みの概略です。水を浄化する仕組みの中でも、砂を使ったろ過の方法は凝集沈殿とともに非常に重要です。なお、凝集沈殿は、広島大学のおもしろ科学実験(2018年3月8日)で取り上げられていますので参照してください。
浄水場で使われている砂ろ過は急速砂ろ過という方法です。急速砂ろ過の役割は凝集沈殿で除けなかった土壌や植物プランクトンなどの微粒子を取り除き、透明な澄んだ水を造ることです。残念ながら砂ろ過では水に溶けている臭い物質などを除くことはできません。美味しい水をつくるためにはさらに、活性炭による吸着処理法などを追加する必要があります。活性炭ではないですが、トウモロコシの炭を用いた吸着の実験は長崎大学の過去のおもしろ科学実験(2018年、3月30日)で取り上げていますので参照してください。
今回のおもしろ科学実験では、ペットボトルと砂を使ってペットボトル砂ろ過器を作成します。この砂ろ過器の中の砂層の水の流れには簡単な法則が成立しますので、この法則も確かめてみましょう。砂ろ過で水の濁りが除去できることは目で見て確認できますが、科学技術では数値で効果を表すことがとても重要です。濁りを測る装置を濁度計と言います。これも自作し、ペットボトル砂ろ過器が片栗粉で濁った水をどの程度きれにできるかを測ってみましょう。
図1 水道水を供給する浄水場の仕組み
図2に今回の作成する実験装置の概要を示しています。ペットボトル砂ろ過器の作成は難しくはないと思います。丁寧に工作の方法を説明していますので、怪我に気をつけながら作っていきましょう。濁度計は水が透明か濁っているかを数値として測るものです。実際に濁度計という測定器が売られていますが、大変高価です。今回、この濁度計を太陽電池とLEDライト、スチロールの黒色板を使い作成します。工作の精度はさほど必要しませんが、工作のポイントとなるところは説明しています。濁度計は作った後の校正という作業が少し大変ですが、ろ過の効果を数値で測れますので是非チャレンジしてください。もし難しければ、ペットボトル砂ろ過器だけでも作成して、ろ過実験を試してみてください。今回は濁った水(濁水)として、片栗粉(実はじゃがいもでんぷん)を水に溶いたものをろ過実験や濁度計の校正に用います。
準備するもの
DIYショップや、100円ショプ、インターネット通販で購入できるものに限定しています。
ペットボトル砂濾過器
- 1.5Lの炭酸飲料のペットボトルの空ボトル(炭酸飲料用は容器の強度が高く円筒形なので適しています)
- 吊り下げ用と重し用の水やお茶などの四角のペットボトル数本(重しでつかうので四角が適しています)
- 内径が4mmのビニルチューブかシリコンチューブ(DIYショップや鑑賞魚店で入手できます)
- 観賞魚用のストレート(I字)のエアチューブコネクタ(ペットボトルの蓋に取り付けて、流出口に使います)
- 脱脂綿(ペットボトルの口の部分に敷いて、砂が溢れるのを防ぎます)
- ひも(砂濾過器を吊り下げる3mm径くらいの強いものがよいです)
- DIY店で売っている海砂か川砂(ここでは、海砂を使ってます)。
- 10-15L程度のバケツを数個(砂を洗ったり、後で作成する片栗粉けんだく水の作成など、いろいろ使います)
- ふるい(1~2mmくらいの目の細かささがよいです)
- プラスチックダンボール(スケールを貼り付け、また、流出口を固定するために使います)
- テープスケール(接着面つきが良いです。プラスチックダンボールに貼り付けて、水位や流出口の位置を測定します)
濁度計
- 1Lくらいのプラスチック円筒透明容器(濁度計のサンプル容器に使うもので、底が平で透明か半透明なものがよいです。底に文字の刻印があっても使えます)
- 小型太陽電池(幅が3cmで長さが5cm程度のもので、インターネット通販で探せます)
- A4サイズの黒のスチレンスボード(5mm厚)を数枚
- デジタルマルチメータ(1.999Vの精度で電圧が測れるものがよいです)
- LED小型ライト(LED小型懐中電灯で光が広がらないものがよいです)
- 被ふくビニール銅線(太陽電池から電圧測定用の線を引き出します)
- 半田とハンダゴテ(太陽電池と銅線を接続します)
- 両面テープ(各種貼り合わせにつかいます)
- 黒画用紙(サンプル容器のプラスチック円筒透明容器を覆います)
- カッターナイフ(切断作業や被ふくビニール銅線の被を取るときに使います)
- ニッパー(被ふくビニール銅線を切ります。刃がついたラジオペンチや、普通のハサミでもOKです)
- 片栗粉(実際はじゃがいもでんぷんです)
- キッチンはかり(重量計は0.01gの精度で測ることができるお菓子用のものが必要です)
- 500mL以上の容量の透明プラスチックコップ(レジャー用の薄いものがよいです)
- 1Lの透明容器(校正で使う片栗粉けんだく水を入れるもの)を5個以上
図2 ペットボトル砂ろ過器と濁度計を使ったろ過の実験
ペットボトル砂ろ過器の作成手順
ステップ1 炭酸飲料ペットボトルを加工する
- 炭酸飲料ペットボトル(1.5L)の底の部分で図3(a)のようにカットする。
- 図3(b)のように、紐を通す穴を開け、さらに脱脂綿をキャップ側に詰める。
- 図3(c)のようにペットボトルのキャップに穴をあけ、そこにストレート(I字)チューブジョイントを内側から差し込みます。さらに、内側にエポキシ樹脂を充填し固めます。
- 図3(d)のようにチューブを接続します(後で適当な長さに切ります)。
図3 ペットボトルの加工方法
ステップ2 ろ過に使う砂を準備する
- 図4(a)のように、市販の砂をふるい(2mm程度の目)にかけ、通った砂を集めます。
- ふるいを通過した砂をバケツに入れて、さらに水道水を適量加え手でかき混ぜながら洗浄します(図4(b)。少し待って、砂を沈降させ濁った上澄を捨てます。この砂の洗浄を繰り返すと、上澄の濁りは薄くなっていきますので、上澄がほぼ透明に見えるまで洗ってください。
*洗い終わった海砂を顕微鏡で観察すると、図4(c)のような砂の粒子が観察できました。0.2mm~1mmのサイズ(粒径)の砂が多いようです。
図4 ろ過につかう砂の準備
ステップ3 砂をペットボトルに充填し、再び砂を洗う
- ステップ1で準備したペットボトルに砂を入れ、およそ20cmくらいの厚さになるまで充填してください(図5(a))。
- 2つのペットボトルを水で満タンにして、テープで2つを繋ぎ固定して、テーブルの端からキャップがある方を突き出して、砂を充填したペットボトルろ過器を吊るします(図5(b))。
- プラスチックダンボールを幅30cmX90cmに切って、図2のようにテープスケールを貼り付けます。図5(c)に示したように、このプラスチックダンボールをペットボトルの後ろに設置します。動かないようにビニルテープでテーブルに固定し、さらにテーブルとペットボトルで間に挟むとよいでしょう。
- ペットボトル砂ろ過器の砂を水道水で洗うため、図5(d)のように流出口は下のバケツの中に入れておき、上のバケツの水道水を、ビニルチューブのサイフォンを使ってペットボトル砂ろ過器に流し続けて砂を洗浄してください。時々、流出口からの水を透明なプラスチックコップなどに取り、透明になったかを確認してください。なお、ペットボトル砂ろ過器の上から少し水があふれるぐらいの流量に調整したほうがよいです。流出口から出る水の流量は、サイフォン出口の位置を調整し、バケツの水面とサイフォンチューブの出口の水位差で調整できます。
図5 砂ろ過実験装置の組み立て
濁度計の作成
ステップ1 太陽電池式光センサーの作成
- ワニ口クリップをつなげた被覆ビニール銅線を小型太陽電池に半田づけします(図6(a))。赤のクリップがプラス、黒をマイナスとします。
- 黒のスチレンボードを約10cmX10cmの正方形に3枚を切り抜きます(図6(b))。1枚はLEDライト台用です。
- その1枚に太陽電池が丁度収まるように長方形の穴を開け、別の1枚に光を取り込む正方形の穴を開けます。
- 穴を開けた2枚を重ね、太陽電池を入れて黒のビニルテープで2枚を貼り合わせるように固定します(図6(c))。
図6 太陽電池光センサーの作成
ステップ2 濁度測定用サンプル容器の作成
- プラスチック円筒透明容器(水筒を利用)の周りを黒の画用紙で巻き、容器の上と下の縁も黒ビニールテープで画用紙を巻き固定します(図7(a))。
- 光が入らないように、画用紙の繋ぎ目も黒ビニールテープで巻きます。また、容器の上と下の縁の部分に黄色や白のテープを貼りマジックで矢印などの印をつけます。これは位置合わせで使います(図7(b))。
図7 濁度測定用サンプル容器の作成
ステップ3 濁度計の組み立て
- 黒スチレンボードから1cmX2cm程度の長方形小片を12個切りだします(図8(a))。その3つに黄色や白色のテープを貼り、その上に位置合わせ用の印をマジックで書きす。その片面に両面テープを貼ります。
- 濁度測定用サンプル容器の中心が太陽電池式光センサーの穴の中心に来るように置いて(図8(b))、長方形小片を、容器の底面の縁の4箇所に貼り付けます(図8(c))。
- 残りの1枚の黒のスチレンボードでLEDライト台を作成します。中央に正方形や円形の穴を開けます。穴サイズは後で調整しますので大きめに開けてください(図8(d))。
- この穴の中心にLEDライトの中心が来るように置いて、その状態で、LEDライトの縁に沿うように長方形小片をLEDライト台に貼り付けていきます。その一つは、位置合わせ用の印を書いたものです(図8(d))。
- また、LEDライト台の裏面にもサンプル容器との位置がずれないように、長方形小片を貼り付けて行きます(図8(d))。
- LEDライト台にLEDを置き、LEDライトにも黄色や白のビニルテープを貼り位置合わせの印を書き、濁度計の完成です(図8(e))。
図8 濁度計の組み立て
ステップ4 濁度計の調整
- 太陽電池式光センサーからのワニ口クリップをデジタルマルチメーターのテスター棒に接続します。
- サンプル容器に水道水を800gを入れます。20℃で、水の密度(比重)は0.998g/mLですので、500gを測ると、501mLになり、十分に小さい誤差です。そこで、この実験では800g=800mLと考えます。お菓子用キッチンはかりは0.01gの精度がありますが、500gまでしか計れない場合が多いので2回に分けて計ります。
- LEDライトを消灯してデジタルマルチメーターのツマミを1番小さい直流電圧が測れるように選択し、電圧を測ります(図9(a))。およそ20~30mV(0.02~0.03V)より小さければ、十分に遮光できており成功です。もし、それより大きければ、外部の光が太陽電池式光センサーの受光面に入っていますので、サンプル容器の上下の縁や画用紙の繋ぎ目に巻いた黒ビニールテープをチェックしてください。隙間があると室内の照明の光が入ります。その場合は黒のビニルテープなどで光が入らないようにしてください。
- LEDライトを点灯して、デジタルマルチメーターのツマミを2Vまでの直流電圧が測れるように選択します。測定電圧が1.5~1.9VにあればOKです(図9(b))。それより高いか低い場合には光の強さを調整する必要があります。なお、1.9V以下にする理由は。デジタルマルチメーターは2V以下の電圧で0.001V(1mV)の精度で測定できるためと、ピッタリ2Vではライトを置き直した場合、誤差で2Vを少し超えて測れなくなることを防ぐためです。LEDライトから光が入るLEDライド台の中央の穴のサイズを変えることで、光の強さを調整できます。黒のビニルテープを格子に組み、中央の穴(すき間)の大きさを調整するとよいでしょう(図9(c))。
図9 濁度計の調整
濁度計の調整と測定する上でのポイント
サンプル容器やLEDライトの位置合わせを正確におこなわないと、太陽電池式光センサーに入る光強度が変化し測定電圧も変化します。実際に、サンプル容器に水を800mL(800g)入れ、濁度計を一度セットして電圧を測った後、一度、分解して再度セットして電圧を測るということを繰り返してください。このとき、一回目の測定電圧をV1、2回目をV2としたとき、|V1-V2|/V1が0.05以下になるように位置合わせを正確に行ってください。これを怠ると濁度計の校正や測定で誤差が非常に大きくなります。また、LEDライトの電池は新しいものを使ってください。
濁度計の校正
作成した濁度計でサンプルを測定すると電圧の値が得られますが、知りたい値は片栗粉濃度や濁度です。そこで、濃度が分かっている片栗粉けん濁水を使い、そのときの電圧を測定し、濃度と電圧の関係を知る必要があります(これを校正と言います)。濃度と電圧の関係が正確に分かれば、未知の濃度のサンプルに対して電圧を測定し、そこから濃度を求めることができます。具体的な校正の方法は以下の通りです。
ステップ1 校正データを得る
- 図10に示したように、ジャガイモでんぷんの片栗粉(今の片栗粉のほとんどはジャガイモでんぷんです)の0.20g,0,40g,0.60g,0.80g,1.00gを、お菓子用キッチンはかりで正確に測り取ります。アルミホイルを適当な大きさに切って皿として使い、重さを測るとよいでしょう。このとき、最初にアルミ皿をキッチンはかりに乗せた状態を0gにして(ゼロ設定のボタンがあります)、その後で片栗粉をアルミ皿に少しづつ落とし測り取ります。また、アルミ皿の外に飛び散らないように注意してください。
- 500mLの水が入る透明プラスチックコップ容器で400gの水道水を測りとります。この場合もこの容器をキッチンはかりに乗せてゼロ設定をします。注意点として容器の重さ自体は100g以下のものを使ってください。100g以上の容器を使うとキッチンはかりの測定可能な範囲を超えます。この400g(=400mL)の水道水に、先に計った重さの片栗粉を入れてよく混ぜます。あらかじめ5種類の濃度の片栗粉けん濁水を作成しておくとよいでしょう。
- 濁度計の調整のときと同じように、水道水を800g(=800mL)をキッチンはかりで2回に分けてはかり取り、濁度測定用サンプル容器に入れ、位置わせ用の目印を使ってサンプル容器とLEDライトなどを正しい位置にセットします。LEDライトをオンにして、デジタルマルチメーターのツマミを2Vまでの直流電圧が測れるように選択し電圧を測定します。濁度計を調整した時の電圧と、大きく異なる電圧でしたら、位置合わせの印に注意してサンプル容器とLEDライトの位置を合わせます。測定した電圧をノートに記録してください。この電圧が濁りのない水を透過した場合の光強度になります。LEDライトを一度LEDライト台から離して再度セットし、電圧を測るという操作を5回以上繰り返し、得られた電圧の平均値を使うと精度が向上します。
- 次に、濁度測定用サンプル容器に入っていた水道水を捨てて、次に0.2gの片栗粉けん濁水を400mLを入れ、さらに400mL(400g)の水道水を入れてよく混ぜます。なお、片栗粉の0.2gを800mLの水に溶かしても体積はほとんど変わりませんので、この濃度は0.2g/(400mL+400mL)=0.2g/0.8L=0.25g/Lです。
- LEDライトとサンプル容器などを、素早く正しい位置に合わせて太陽電池式光センサーで電圧を測定します。この場合も、LEDライトの再セットを繰り返して得られた平均電圧を使うと良いでしょう。次に、この片栗粉けん濁水を捨てて水道水で容器を洗います。水をよく切って、同じように、0.40gを400mLの水道水にけん濁させ、さらに400mLの水道水を入れてよく混ぜ、電圧の測定を行います。すべての濃度に対して、同じように電圧の測定を行います。この片栗粉濃度と電圧(平均電圧)のデータが濁度計の校正データとなります。
*片栗粉は、時間が経つと沈殿するので、よく混ぜた後にできるだけ素早く測定する必要があります。
図10 片栗粉けんだく水による濁度計の校正の流れ
ステップ2 校正データをグラフにして校正直線を引く
- グラフ用紙を用意して、横軸に片栗粉けん濁水の濃度を取ります。ステップ1で作成した濃度は、0g/L(水道水)、0.25g/L、0.50g/L、0.75g/L、1.00g/L、1.25g/Lとなります。電圧を縦軸にして、それぞれの片栗粉けん濁水の濃度と、測定された電圧の値の点をグラフ用紙にプロット(点を打つこと)してください。例を図11に示ししています。表計算アプリが使える場合は、表計算のシートにデータを入力してグラフ(散布図)を作成してもよいです。みなさんの携帯電話やTablet、パソコンからWebアプリのエクセルやグーグルスプレッドシートなどの表計算アプリが使えます(使い方の説明は、ウェブにたくさんありますので、自身で検索してください)。なお、図11のグラフは一つの例ですので、みんさんが作った濁度計ごとに違ったグラフになります。しかし、片栗粉けん濁水の濃度が高くなると電圧が下がるという特徴は同じになるはずです。
- 次に、できるだけ均等にすべてのデータ点の近くを通るような直線(校正直線)を引きます(図11)。測定に誤差がありますので、データ点は直線の上になくてもかまいません。ただし、誤差が大きい測定値ほど直線とデータ点は離れます。この直線は表計算アプリを使えば、データに当てはまる最も良い直線を正確に引くことができます。このデータに当てはまる直線を正確に求める方法として最小2乗法があります。表計算アプリではこの方法を使っています。最小2乗法は大学の統計学で勉強しますが、高校数学の範囲でも理解できますので、興味がある方は調べてみてください。
- この得られた校正直線を使えば、未知サンプルを測定した電圧から濃度や濁度を求めることができます(方法は図11の枠内の説明を読んでください)。
- 今回の実験では、水の濁りの成分(濁質)として片栗粉を使ってますので、濁りが片栗粉だけの場合、校正直線で求めた片栗粉濃度の値を使って構いません。しかし、もっと一般的に濁りを表すには、濁度という値を求めます。濁度の測定にはカオリンという純度の高い粘土の微粒子(コロイド)や、ホルマジンという有機物のコロイドを用いて校正を行います。カオリンを用いた場合をカオリン濁度と呼びます。カオリン1mg(=0.001g)が1Lの水に溶けたコロイド溶液の場合が濁度1mg/L、あるいは1度とも表わします。ホルマジン濃度で1mg/L(=0.001g/L)の場合は1NTUと表わします。濁度は微粒子による光の散乱の度合いを表すものです(発展の図20)。粒子のサイズなどで光の散乱の仕方は変わります。じゃがいもでんぶん片栗粉の場合、粒子の直径が平均で50µm(0.05mm)程度ですが、製品ごとにあまり変わらないので、簡単に買えるジャガイモでんぷん片栗粉を濁度の標準物質に使っています。大学の実験室で正確に測定したところ、ジャガイモでんぷん片栗粉のけん濁水の1.00g/Lは、カオリン濁度で168mg/Lとなりました。従って、ジャガイモでんぷん片栗粉濃度でX(g/L)となったばあい、T=168・Xの式で、カオリン濁度T(mg/L)を計算することができます。以後、カオリン濁度を単に濁度と呼びます。
*この図11では直線を引きましたが、本当は太陽電池に入る光の強さ(あるいは電圧)と片栗粉の濃度の関係は直線になりません。この正確な関係は高校数学IIの指数関数や対数関数、等比数列を使えば導くことができます。興味がある方は発展を見てください。
図11 片栗粉けん濁水の濃度と太陽電池の電圧の関係
実験1 ペットボトル砂ろ過器の水の流れの法則を調べましょう。
図12 ペットボトル砂ろ過器の水の流量と
水位差の関係
砂ろ過器の水の流の法則を調べましょう。図12に示したろ過実験装置で、水位差H(m)を変化させた場合、1分間に流れる水の量(流量)がどのように変化するかを測定します。この実験は、一人で行うのは少し大変ですので、友達や家族の方に手伝ってもらいましょう。
- 流出口の位置をペットボトルろ過器より高くしてビニルテープで固定します。ペットボトル砂ろ過器に、こぼれない高さまで水を入れます。そこを水位線にします。水位線の高さはテープスケールで測っておいてください。
- 砂の間には空気が入ってますので、ペットボトルをゆさぶったり、叩いたりして空気を抜きます(泡になって出てき行きます)。
- 流出口をクリップで閉じ、水がもれないようにした上で、ビニルテープか何かで一番低い位置に流出口を固定します。この流出口の高さをテープスケールで測ります。
- 流出口の下にバケツを置いて、流出口を閉じてあるクリップを外し、直ぐにろ過器に水を注ぎ水を流し続けます。最初、少し濁った水がでますので1L以上の水を流してください。
- 水が流れると砂ろ過器の水位は下がっていきますので、水位線から数mmほど下がったら水位線のところまで水を足します。これをくり返して水位線の位置で水位が安定するように水を注いでください。一人がこれに専念するとよいでしょう。
- 次に、1分間の流量を測ります。別の一人が、あらかじめ重さを計った(あるいは、このコップを乗せてキッチンはかりのゼロをおして)プラスチックコップを流出口の近くに持って待機しておきます。携帯電話のストップウォッチを準備し、コップを抽出口の下に持っていき、水が入り始めた瞬間に時間を計り始め、ちょうど60秒後にコップを流出口から外して、コップにたまった水の重さを測定して、ノートに記録します。
- 流出口を一番下の位置から5cmから10cm程度上げて、1分間の流量を測定します。同じ位置で複数回測定して平均値をとると精度が向上します。水位差が5cmから10cm程度になるまで、この測定を繰り返し、得られた水位差と流量の点をグラフ用紙にプロットしてください。もちろん、表計算アプリでグラフを作成してもよいです。結果の例を図13に示します。
*図12で、水位差がゼロの場合は水は流れません。水の流量を電流と考えると、水位差は電位差(電圧)に相当します。電位差ゼロの場合は電流もゼロです。オームの法則では電位差が大きくなると、電流は比例して増加します。図13の実験結果から、砂ろ過層を流れる水の流量も水位差に比例して増加することがわかります。この関係は1856年にフランスの水道技術者ヘンリー・ダルシーにより砂ろ過の研究として発表され、ダルシーの法則として知られています。この法則は地下水の流れの解析にも広く応用されており、とても重要な法則です。ダルシーの法則の式は、図12の囲みの中に示しています。また、図13の囲みの中では、ダルシーの法則から透水係数を求めています。みなさんの実験結果も計算して、この透水係数を求めてください。
図13 水位差と流量の関係 ダルシーの法則
実験2 ペットボトル砂ろ過器を使って片栗粉けん濁水の浄化
図14 片栗粉けん濁水の砂ろ過の結果
このペットボトル砂ろ過器が片栗粉で濁った水を、どの程度、透明な水にできるかを、濁度計で測定しましょう。
- 片栗粉けん濁水を10L程度つくります。15Lの容量のバケツに12.5gの片栗粉を入、水10Lをいれます(バケツの目盛りで10Lを測ってかまいません)。よくかき混ぜながら、800mL(800g)を取って濁度計で片栗粉けん濁水の濃度(濁度)を測定します。測り方は、すでに濁度計の校正のところで説明しましたので省略します。
- ろ過の流量を100mL/分に設定してみましょう。図13の結果が得られた場合、Q=100(mL/分)とするには、水位差H(cm)=Q/2.315 = 100/2.315 = 43.2(cm)となりますが、実際の設定では43cmでよいでしょう。みなさんの砂ろ過器では、透水係数が異なりますので、違った水位差になるでしょう。もちろん、100mL/分に設定しなくても構いません。ただし、あまり流量が小さいと1Lのろ過水を取るために長い時間が必要になります。
- この水位差でペットボトル砂ろ過器の中に水道水を注ぎ、10分くらい流してから流出口に1L以上の容器を置き、ろ過水を約1L取ってください。少しだけ濁りが残っているかもしれませんので、800mLを取って濁度計で測定してください。測定した電圧から、片栗粉濃度、さらに濁度を計算できます。この場合の片栗粉濃度は、砂の濁りが片栗粉濃度として、どの程度の濁りに相当するかという意味です。
- 次に、片栗粉けん濁水を注ぎます。100mL/分の流量の場合、ペットボトル砂ろ過器の中の水道水が、片栗粉けん濁水に置き換わるためには15分程度は必要になると考えられるので、20分後から測定を開始しましょう。流出口に1L以上の容器を置いてろ過水を1L取ります。さらに30分後、40分後 …と、ろ過水を取ってください。
- それぞれのろ過水を、よく混ぜてから濁度計に正しくセットして素早く測定してください。この測定はサンプル水を溜めている間でもよいですし、全部のろ過水を取り終わってから測定してもよいです。
- 図14には、ろ過前の片栗粉けんだく水とペットボトル砂ろ過器によるろ過後の浄水を比較した写真を示しています。ろ過前は白濁していますが、ペットボトル砂ろ過器を通過すると透明な浄水が得られています。
結果の例と砂ろ過の仕組みの説明
- 結果の例を表1に示しています。水道水のろ過水は少し濁りがあり、片栗粉濃度で0.08g/L、濁度で13.75mg/Lに相当する濁りがあるようです。砂からの濁りが片栗粉けん濁水のろ過水にも、同程度混じっていると考えたほうがよいでしょう。また、ろ過前の片栗粉けんだく水の濃度の片栗粉濃度で1.21g/Lと測定されました。1.25g/Lになるように調整したのですが、10Lをバケツで測ったので体積の誤差があったと考えられます。
- 表1の最後の列には濁度で計算した除去率の計算値が示してあります。この濁度除去率は、砂ろ過器に入るけん濁水から除去された濁質(片栗粉粒子)の割合です。計算方法は、表1の下の囲みの中に示しています。このとき、40分後まで砂の濁りが同じように出ていると考え、水道水のろ過水の濁度Cをろ過水の濁度Bから差し引き、これが片栗粉けん濁水のろ過水の実際の濁度であると考えています。この濁度を使った場合、濁度除去率は20分後、30分着で95%近くありましたが、40分後には除去率は低下してきており89%程度となってます。ろ過をこのまま続けると除去率は次第に低下すると予想できます。砂ろ過にも限界がありますが、ろ過を続けると除去率が低下するだけでなく、ろ過流量も低下します。これは、濁りの成分が砂の間に溜まってしまい、目詰まりを起こすためです。実際の浄水場では定期的的に逆方向(下から上へ)に水を流して砂を洗い、この目詰まりを解消します。これを逆洗浄と言います。残念ながら、作成したペットボトル砂ろ過器ではこの逆洗浄を試すことは難しいので、目詰まりが起きたら砂を取り出して洗って再び充填するか、新しい砂に取り替えることになります。
- 砂ろ過の仕組みを図17、18、19で簡単に説明します。図4(d)の顕微鏡写真のように、今回使用した砂の粒子のサイズは、0.2mmから1mm程度のものが多いようです。この砂粒子が砂層を形成した場合、砂層のすき間は、およそ0.2mm程度と考えられます。もし、このすき間より大きな粒子であれば、この砂層を通ることはできず、図17に示したように砂層の上面でろ過されます。この場合はふるい効果によるろ過と呼ばれています。また、粒子が次第に砂層の上に堆積していきます。その堆積した粒子もろ過効果を示します。このような場合をケーキろ過と呼びます。この堆積した粒子の層をケーキ層と言います。このケーキ層が厚くなると、急に水が流れなくなります。ケーキろ過は砂層表面だけで粒子がろ過されており、砂層の内部が無駄になります。一方、片栗粉のデンプン粒子サイズは50µm=0.05mm程度ですので、砂の間の0.2mmほどのすき間を通過できます。この場合、図18のように、砂層の表面に溜まらずに、砂層の内部に入ってゆき、内部の砂粒子で捉えられます。このようなろ過を深層ろ過と呼びます。深層ろ過では、粒子は砂粒子のすき間を流れる水の流れに乗って動きますが、砂の表面に非常に近くまで接近することがありますが、砂粒子の表面とこの粒子の間に引力が働く場合には砂に付着することになります。実際の水中で働く粒子間の力は簡単ではなく、高度な物理と化学の知識が必要です。ここでは、あまり正確ではないですが、簡単な説明を図19に示しました。砂の表面は水中で負の電気を帯びています。そのため、図19(a)のように濁質の粒子が正の電気を帯びていれば電気的な引力で強く付着します。図19(b)のように粒子全体は電気を帯びていない場合でも、粒子が負の電気を帯びた砂の近くに接近すれば、この粒子の砂側に正の電気が、反対側に負の電気が集まり、結果として引力が働きます。図19(c)のように、粒子が負の電気を帯びていると砂の表面とは反発して付着が難しいと考えられます。デンプン粒子は負の電気を帯びていることが知られており、砂粒子には電気的な力では付着しづらいと考えられます。しかし、実際には90%以上が除去されています。おそらく、砂粒子の間のすき間には狭い部分があって、そこに粒子が引っ掛かる一種のふるい効果によりでんぷん粒子はろ過されたと考えられます。
*実際の浄水場では、ろ過の前に凝集剤を添加しますが、これはアルミニウムイオン(三価の陽イオン)が主成分であり、凝集した濁質粒子は電気を帯びていないか、あるいは、正の電気を帯びた状態になっており、砂の粒子に付着しやすくなっています。このように、濁りのない透明な水道水をつくる過程には、いろいろな現象が潜んでおり、その原理を正しく理解するには物理や化学の総合的な知識が必要になります。
表1 片栗粉けんだく水の砂ろ過前後の濁度変化の例
図15 片栗粉けんだく水の砂ろ過の結果
図16 砂ろ過の濁度除去率の変化
図17 砂ろ過の仕組み(ケーキろ過)
図18 砂ろ過の仕組み(深層ろ過)
図19 砂の粒子とけんだく物粒子の間に働く力
まとめ
今回のおもしろ科学実験では、ペットボトルに砂を詰めて簡単なペットボトル砂ろ過器を作成し、まず砂ろ過器内の砂層を流れる水の流れ方の法則を確認しました。次に、ペットボトル砂ろ過器の浄化能力を知るために、片栗粉けん濁水水を砂ろ過器に流し、ろ過前とろ過後の水を比較しました。ろ過前は白濁したけん濁水が見た目でも透明になることがはっきりと確認できたかと思います。自作した濁度計で濁り(濁度)を測定すると、例ではろ過開始から30分までは95%程度が除去されていました。皆さんの場合はどうだったでしょうか。見た目だけではなく、ぜひ、実際に濁度計を自作して、濁りの測定にもチャレンジしてください。
さらなる探求
今回作成したペットボトル砂ろ過器と濁度計を使った、いろいろなサンプル水をろ過しその効果を確かめてください。例えば、植物プランクトンで緑色に濁った公園の池の水に対しても浄化効果があるか調べるのも面白いでしょう。この濁度計は水の濁り(濁度)を測ることができますので、いろいろな自然水の調査にも使えます。ただし、河川や公園の池などの水辺は、立ち入り禁止の場合も多く、危険ですので、そのような場所では決して採水しないでください。また、ろ過の特性をより詳しく知る実験も興味深いです。例えば、水位差を変えてろ過実験をすることで、濁度(粒子)の除去と流量の関係が調べられます。さらに、同じでんぷんでも片栗粉の代わりに、コーンスターチや米デンプン(米粉ではない)は、デンプンの粒径が異なりますので(検索して調べてみてください)、粒子の大さと除去率の関係を見ることもできます。濃いけん濁水をろ過した場合には、目詰まりで流量が低下することが予想できます。この目詰まりの様子を詳しく調べるには、けん濁水をろ過をしながら流量の変化を測ることで明らかにできます。是非、皆さんのアイデアで、いろいろな実験を考えてみてください。
発展 濁度計について
図20 濁度計の原理の説明図
光がけん濁水を通過すると、光の強度が次第に減少します。この減少の法則を高校の数学IIの範囲の指数と対数、等比数列を使って説明しましょう。なお、ここではLEDからの光は直進するものとします。
Iout(=I0)の光が上から入り、厚さXの薄い層を通過したとき、層の中の粒子に光が当たると、一部の光は吸収されます。また表面で反射され光の方向が変化し、光センサーに達しない光もあります。これを光の散乱と呼びます。また、粒子に当たらずに真っ直ぐに通過する光もあります。光が散乱や吸収される割合(比率)をrとすると、入射光が次の層に入射する割合(比率)は1-rです。明らかに、rはこの層の中にある粒子数Nに比例すると考えられるので、比例定数をaとして次式が得られます。
I1/I0=1-r=1-aN
粒子数Nは粒子濃度Cに体積を掛けたものですが、この層内で、光が通過している部分の体積はSXですので、N=CSXとなりますので、以下の式を得ます。
I1/I0=1-r=1-aCSX
次に、Lの長さの光が通過する部分の水柱を、等間隔のN段に分割し、格段で減光される割合は同じで1-rとすると、左図から明らかなにように、格段を透過する光の強度は公比が1-rの等比数列になり、最後のN段目では
IN/I0=(1-r)N=(1-r)L/X,ここで、層の厚さX=L/Nです。
0<1-r<1で、1/x>0なので、0<(1-r)1/X<1となります。
そこで、(1-r)1/X=10-A,A>0と置くことができます。
したがって、減光の割合はIN/I0=10-ALと書けます。
粒子濃度Cも減光に影響するので、Aは粒子濃度Cの関数になります。ここで、粒子濃度が一定で、光が通過する距離Lが2倍(=2L)になった場合と、Lはそのままで粒子濃度Cが2倍になった場合を考えると、光を散乱あるいは吸収する粒子数は同じです。従って、減光の割合に対する距離Lの影響と、濃度Cの影響は同じである必要があります。そこで、A=bCとおけば、減光する割合は10-bLCとなり、LとCが同じ影響を与えます。その結果、次式が得られます。
IOUT=IIN10-bLC
この式から、濃度Cが増加すると、指数関数的に光センサーに到達する光強度は減少することがわかります。光強度IOUTと光センサーの電圧は比例しますので、次式が得られます。
Vw=BIOUT=BIIN10-bLC
ここで、Bは光強度と光ンサー電圧との間の比例定数です。
図11のプロットの点をよく見ると、片栗粉濃度に対し直線的に減少しておらず、下に凸の形で減少しているように見えます。これは指数関数の特徴です。今回は、直線からのズレはさほど大きくないので、中学生の範囲でも理解できるように指数や対数を使わずに、一次関数の校正直線としました。
次に、指数関数を使った場合の実験データの解析法を説明します。水道水で測定した場合の光センサーの電圧をVwとすると 水道水の場合でも多少減光されるので、
Vw=BIOUT=BIIN10-bLWとします。
水道水に片栗粉をけん濁させた場合、水道水のけん濁物成分に片栗粉粒子(濃度C)が加わると考えると、
V=BIIN10-bL(W+C)となり、これをVwで両辺を割ると、
V/Vw=BIIN10-bL(W+C)/BIIN10-bLW=10-bLC
両辺の常用対数をとると、-log(V/Vw)=(bL)Cを得ます。
図11で得られたデータを使い、Y=-log(V/Vw)の値を計算し、濃度Cを横軸、このYを縦軸としてグラフを書くと、図21のようになり、Yの値は片栗粉濃度Cと比例することがわかります。もちろん、図11で引いた直線を使うよりも、このグラフを使ったほうが精度が改善されます。
高校数学IIIで学ぶ極限計算を使えば、濃度に対して光強度が指数関数的に減少することを、以下のように導けます。
IN/I0=(1-r)L/X=(1-aCSX)L/X=(1-aCSX)L(aCS)/(aCS)X
-aCSX=yとおけば、(1-aCSX)L(aCS)/(aCS)X=(1+y)-L(aCS)/y
したがって、IN/I0==((1+y)1/y)-L(aCS)
分割段数を無限大、すなわちN→∞のとき、X→0,y→0
このとき、(1+y)1/y→e(=2.71..)に収束するので(数学IIIの教科書や参考書を見てください)、
IN/I0=e-L(aCS)=e-bLC,,b=aS
すなわち、IOUT=IINe-bLCが得られます。
先ほどは、底が10の指数と常用対数を使いましたが、ネイピアのeを底とした指数関数と自然対数を使うことが望ましいです。
図21 Y= -log10(V/Vw) と片栗粉濃度との関係
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