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環境への取り組み

カーボン・ニュートラル、生物多様性時代の水インフラ技術

関東地区

2024年12月5日
関東地区

茨城大学 工学部 都市システム工学科
教授 藤田昌史

下水処理場におけるカーボン・ニュートラル

 上水道、下水道は、私たちの生活に必要不可欠な水インフラです。日本では、1人あたり1日に約250Lの水道水を使い、ほぼ同量の排水を出しています。それを集めて処理するのが下水処理場です。現在、全国で約2,100カ所の下水処理場があり、活性汚泥と呼ばれる微生物群を利用して、排水を処理しています。酸素の溶解度が低い一方で、微生物が酸素呼吸し、有機物等を代謝する機能を活用して排水処理を行うため、排水のなかに空気を吹き込む必要があります。このエアレーションをはじめ、排水処理等にはエネルギーを要するため、下水処理場では約72億kWhの電力が消費されており、約520万t-CO2の温室効果ガスが排出されています。これは日本全体の排出量12.1億t-CO2の約0.4%を占めています。したがって、水域の水質保全等に貢献している下水処理場といえども、投入エネルギーを最適化した排水処理、つまりカーボン・ニュートラルへの貢献が求められています。

下水処理場の運転操作・管理と排水処理シミュレータ

 下水処理の分野では、熟練技術者の経験に基づいて排水処理が行われていることが多いです。人口減少やインフラの老朽化問題を背景に下水道事業は過渡期にあり、今後は熟練技術者の不足が懸念されています。このようななかで、合理的な排水処理の運転操作・管理を支援する排水処理シミュレータの研究が国内外で精力的に行われています。排水処理シミュレータに、流入下水の水量・水質、エアレーション等の運転操作条件を与えると、有機物、窒素、リン等の除去に係る微生物反応が計算され、処理水質やエネルギー消費量等を計算することができます。数学、化学、生物等の知識を総動員して、排水処理モデルを構築することになります。一方、既存の学術的知見に基づいた数学モデルではなく、AI(人工知能)を活用したモデルも提案されています。

リアルタイム排水処理シミュレータの可能性

 私たちの研究室では、排水処理モデルと機械学習をハイブリッド化し、下水処理場に設置されている水質センサーの各種オンラインデータも活用することで、汎用性や予測精度が極めて高い排水処理シミュレータの開発を進めています。このシミュレータは、ハイブリッドODE(ordinary differential equations)というモデル構造になりますが、私たちのシミュレータを含めて、国際的にまだ3編しか学術論文が公表されておりません。これから研究が進む分野といえます。

 私たちはこのシミュレータを、排水処理の運転操作・管理にリアルタイムで活用したいと考えています。つまり、時々刻々と変化する流入水質に対して、どのような運転操作を行えば、省エネを図りつつ目的とする処理水質を得られるか、リアルタイムでの検討が可能となる画期的な手法です。しかし、壁となるのが、どうやって流入水の水質をリアルタイムで評価するかです。センサーによりオンライン測定できる水質項目もありますが、できないものもあります。シミュレータでは、有機物は生物分解性に基づいて易分解性と遅分解性にわけられていますが、これらをリアルタイムで測定するのは困難です。私たちは、時系列データの将来予測が可能な機械学習モデルを活用して、センサーでは評価できない流入水質を推定する手法の検討も同時に進めています。

 排水処理シミュレータの有効性を検証するためには、下水処理場の水質等のデータが必要になります。私たちは、茨城県南部にある有機物・窒素除去を行っている下水処理場に、自動採水器や水質センサーを設置させていただき、流入水、排水処理タンク内、処理水の水質データを連続的に取得・蓄積しています(写真-1)。また、活性汚泥を採取して、有機物や窒素の除去に寄与する微生物群の活性も評価しています(写真-2)。茨城大学日立キャンパスから現場までは片道約70kmあるので、ちょっとしたドライブを楽しみながら研究室の卒論生や大学院生と研究を進めています。

写真-1 下水処理場での調査研究の様子
写真-2 微生物の呼吸速度試験の様子写真-2 微生物の呼吸速度試験の様子

さいごに

 本研究は、国土交通省の建設技術研究開発助成制度の助成を受けて実施しています。本技術が確立すれば、省エネを図りながらリアルタイムで処理水質を制御することが可能になります。近年、気候変動により冬季の降雨量が減少し、内湾等への栄養塩類の流入量が減少しているため、適切に栄養塩類を残存させた下水処理水を放流することで、海藻等の養殖に役立てる事例が増えてきています。本技術はこのような生態系サービスの持続的享受にも貢献できると考えています。また、オンライン上で下水処理場の運転操作ができるようになると、複数の下水処理場をまとめて管理することも可能になります。現在、自治体で進められている広域的な下水道事業を支援する技術となり得ます。このような将来像を目指して、産官とも連携しながら引き続き研究を進めていきます。

参考文献

Zhao G, Furumai H, Fujita M: Supporting data–enhanced hybrid ordinary differential equation model for phosphate dynamics in municipal wastewater treatment, Bioresource Technology 409, 131217, 2024.

https://doi.org/10.1016/j.biortech.2024.131217

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