2021年11月19日
北海道地区
北見工業大学 地域未来デザイン工学科
宮﨑 健輔 准教授
汎用プラスチックは私たちの身の回りの至る所に大量に使用されています。そのような大量生産・大量消費は多量の廃棄物を生み出しています。商品レベルの汎用プラスチックは高分子量であるため、微生物により水と二酸化炭素に分解されるいわゆる生分解性に乏しい材料です。そのため、プラスチック廃棄物問題は深刻となっています。近年では、直径5mm以下のいわゆるマイクロプラスチックが、生態系に与える影響が懸念されています。また、マイクロプラスチックを含め、海洋に排出されたプラスチックに関しては海洋プラスチックごみと呼ばれています。毎年約800万トンもの海洋プラスチックが出ており、2050年には海洋中のプラスチックごみが魚の重量を超えるのではないかと危惧されています。
ほぼ人が暮らしていない北極や南極でもマイクロプラスチックが観測されたという報告や、日本の海岸においても外国からのプラスチックごみが漂着しているという報告(環境省令和元年版環境・循環型社会・生物多様性白書)がありますので、これらの問題に対応するためには、世界中の国々が協力する必要があります。国際的には、世界経済フォーラム年次総会や国連総会、G7、G20などで議題とされ、持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットの1つとなっています。
解決法として注目されているのが、いわゆる生分解性プラスチックです。微生物により分解される生分解性プラスチックですが、コストが高い等の問題が普及の妨げになっています。それらの問題の解決方法のひとつとして、充填剤による使用量の削減が挙げられます。そして、充填剤に木材(木質系バイオマス)等の生分解性を持つ物質を選択すれば、材料全体の生分解性も保持されます。北見工業大学のある北海道は広大な森林を有しており、その割合は日本の森林面積の5分の1を占めます。そのため、その森林を保持するため排出される間伐材は莫大な量になりますが、ほとんど利用されていないのが現状です。我々はこれらの間伐材の有効利用と生分解性プラスチック使用量の削減を目指し、未利用木質バイオマス複合材料の研究を行っています。複合材料化により、より生分解性が高くなる場合もあります(図1)。
一方、汎用プラスチック自体に関しては、酸化生分解という手法で生分解性を付与することもできます。これは、低分子量化したポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの汎用プラスチックは生分解性を持つことを利用したものです。PEやPPに酸化促進剤を添加し、酸化促進剤が利用するエネルギー源を与えることで酸化分解により低分子量化し、生分解性を持たせる手法です。しかし、実際市販されている酸化生分解性プラスチックは熱酸化分解を利用しているものが多く、ある程度の高温が必要であり、自然環境下での分解促進が難しい場合があります。そこで、より実用性のある酸化生分解性を目指し、光を利用した酸化生分解性に注目。光触媒(TiO2)に添加剤を加えて、より高い分解性持つ酸化促進剤を開発しています(図2)。現在では多くの微生物が行う加水分解を利用した汎用プラスチックへの生分解性の付与についても研究しています。
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