人は目に入った光を網膜にある視細胞で電気信号に変換し、それを脳で処理することで最終的な知覚を得ます。視細胞は網膜の一番後ろにあるため、光の入力方向と反対に情報処理が行われます。その情報は視神経を通して脳に送られるため、視神経の出口である視神経乳頭には視細胞がなく、光を感じることができません(図1)。この視神経乳頭を「盲点」と呼んだり、発見者である17世紀のフランスの物理学者マリオットにちなんでマリオット暗点と呼びます。
外界のある1点からの光が同時に両方の眼の盲点に入ることはありません。両眼で見ているときには、盲点に対応する対象は反対の眼で見ることができます。また、片眼を閉じたときには、盲点の対象は両眼どちらにも入射することはないです。つまり、普段私たちは盲点に気付くことはありません(図2)。
ここでは、ある特定の条件で見ることで、自分の盲点に気付く体験をしてみましょう。
以下の図3を印刷してください。赤点と十字の間隔が10 cmくらいに印刷すると、盲点を見つけやすいです。パソコン等にこの画面を映した状態でも体験できます。
印刷した紙を手に持ち、紙の中央を眉間あたりに持ってきます。
右眼を閉じて、左眼で十字を見ます。
左眼で十字を見たまま、紙の位置を固定し、頭を前後に動かし、赤点が消える位置を探します(図4)。ちょうど赤点が消えたとき、赤点が左眼の盲点の位置に投影された状態になります。
赤点が消えて、そこは何色に見えたでしょうか?おそらく青色に見えたと思います(図5)。盲点には視細胞がないため、そこに入射した光は電気信号に変換できないので、知覚することができません。しかし、私たちの脳は盲点の周辺の情報から盲点にある情報を補完して知覚することができます。ここでは、盲点の周辺がすべて青いので、盲点にも青色のものがあると脳が推測して青色に見えます。
今度は、自分で盲点の周辺に好きなパターンなどを描いて、盲点がどのように補完されるか体験してみましょう。以下の図6を印刷してください。そして、左の円の周辺に好きなパターンを描いてください。このとき、どのようなパターンを描いたらどのように補完されるか予想しながら描いて見ましょう。描き終わったら、先程と同じ方法で、赤点が消える位置を探しましょう。
いかがでしたでしょうか。自分が予想した通りの補完がされたでしょうか。このように、さまざまな視覚パターンを呈示して、それがどのように知覚されるか人に応答してもらうことで、人の脳における情報処理を解明する心理物理学と呼ばれる研究分野があります。人の視覚情報処理を研究することで、効率的な画像圧縮法や画像認識技術などの開発に繋がります。
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