
2025年10月17日
東海地区
静岡大学 工学部
宇宙では、人工衛星や探査機のカメラや望遠鏡が「光」を測ることでデータを集めています。ところが、機体に用いられる樹脂や接着剤などの有機材料からアウトガスとして分子(ガス)が少しずつ放出され、それがレンズや鏡に付着すると、光が散乱・吸収され、測定精度が低下します(図1)。これは分子状コンタミネーション(分子状汚染)と呼ばれ、宇宙機の長期運用では避けて通れない課題です。私たちの研究室では、この「汚れ」を光の力で分解する光触媒に着目し、過酷な宇宙環境においても光触媒を機能させるための研究を進めています。
光触媒は、光を受けると電子と正孔(正の電荷)が生じ、それらによる酸化還元作用によって付着した有機物(汚染分子)を二酸化炭素や水にまで分解します。なかでも二酸化チタン(TiO₂)は、安全・安価で安定性が高い代表的な光触媒材料で、消臭・防汚用コーティングとして市販もされています。地上では空気中の酸素や水分が光触媒反応を助けますが、宇宙(真空)ではそれらがごくわずかなため、地上ほど反応は進みにくくなります。
真空環境で光触媒が実際にどの程度汚染分子を分解できるのかを定量評価するため、水晶振動子マイクロバランス(QCM)という極めて高感度な質量センサーを用いて、汚染分子を模した試料を光触媒の表面に蒸着し、紫外光照射時の光触媒分解による汚染物質の質量減少をリアルタイムで測定しました[2]。その結果、光触媒による分解量は時間とともに指数関数的に増加し、やがて一定値に飽和することが分かりました。真空では酸素や水が少ないため反応は地上よりも緩やかですが、宇宙機の許容清浄度と比較して有効な劣化低減が期待できる見通しです。
光触媒性能の向上を目指し、私たちは真空下での光触媒反応による汚染物質の分解メカニズムを解明し、その知見に基づいて光触媒材料を設計・作製し、同時にQCMや分光測定による光触媒性能の評価手法を確立して効果を定量化する、という流れで研究を進めています(図3)。
光触媒の宇宙応用に加えて、宇宙機の汚染問題の解決に向けて、汚染による光学特性の劣化予測[3]や低汚染放出(低アウトガス)材料の開発[4]も進めています。
[1] V. Haemmerle, J. Gerhard: “Cassini camera contamination anomaly: Experiences and lessons learned”, SpaceOps 2006 Conference AIAA 2006-5834 (2006).
[2] N. Shimosako, H. Sakama, T. Dotani: “Estimation of photocatalytic activity of TiO2 in vacuum using a quartz crystal microbalance technique for space applications”, Acta Astronaut. 213, 29 (2023).
[3] N. Shimosako, H. Sakama, T. Dotani: “Long-term change of transmission spectra of quartz glass contaminated with oleamide in vacuum”, Acta Astronaut. 202, 617 (2023).
[4] N. Shimosako, Y. Masuda, M. Matsuoka, E. Miyazaki, M. Moriyama, T. Kinumoto: “Outgassing properties of bamboo-derived cellulose nanofiber for space applications”, Acta Astronaut. 225, 595 (2024).
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