2021年9月10日
関東地区
東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科
渡部 大輔
近年、国をまたいだモノの流れが活発化しており、船舶を活用した国際海運の輸送量の増加傾向が見られています。そこで、持続可能な国際海運に向けた温室効果ガス及び大気汚染物質の排出などの環境対策が世界的に進められています。例えば、国際海事機関(IMO)では、2100年までに船舶からの温室効果ガスの排出をゼロにする長期目標を定め、船舶の省エネ運航の促進を図っています。今回の記事では、クリーン・エネルギーとして注目されている液化天然ガス(LNG: Liquefied Natural Gas)の輸送を対象として、船舶自動識別装置(AIS)から取得された船舶の運航データを用いて、船舶航行の際のエネルギー消費に基づいて温室効果ガスの排出量を計算し、地理情報システム(GIS)を用いて環境影響を評価する研究の紹介をします。
地理情報システム(GIS: Geographic Information System)とは、位置に関する情報を持ったデータ(地理空間データ)を総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術です。国際海運に用いられる船舶には、海のカーナビである電子海図表示システム(ECDIS: Electric Chart Display and Information System)の導入が進むとともに、船舶の運航情報を自動的に船舶間あるいは船舶と陸上局の間で送受信する船舶自動識別装置(AIS: Automatic Identification System)の搭載が義務付けられています。AISデータは、船舶に関する静的データ(船名等)と動的データ(位置や船速等)で構成されていることから、全地球測位システム(GPS: Global Positioning System)などで取得した船舶の位置情報に対して、GISを用いて表示することが可能となります。
船舶の航行により発生する温室効果ガスの排出量について、計算手順は下記の通りです。
こうして求められた温室効果ガスの発生量に関する空間的分布については、下図のようになります。LNGの主要な産出地である中東や豪州、西アフリカ、南米から、消費地である日本を含めた東アジアや欧州をつなぐ航路上において、排出量の多い箇所を見ることができます。特に、東南アジアのマラッカ海峡や南シナ海、中東のスエズ運河、欧州の地中海など、多くの船舶が航行する海域において、温室効果ガスの排出などの環境影響を大きく受けている地域が見られます。
海に囲まれた日本にとって、国際海運は生活を支える重要なインフラです。そこで、船舶に関する環境問題は、国内の港湾や海辺だけでなく、地球全体の問題として考えることが重要です。2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs: Sustainable Development Goals)の達成に向けて、世界中の国家や企業、大学などが様々な取り組みが進められています。更に近年、数理最適化や人工知能(AI:Artificial Intelligence)などの技術革新により、地理空間データを含む大量のデータ(ビッグデータ)の解析が効率的に行えるようになりました。それに伴い、陸上における自動運転車と同じように、海上においても自動運航船の研究開発も進められており、より地球環境への影響の少ない最適な船舶航行の実現が期待されています。
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