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環境への取り組み

微生物を利用した重金属廃液処理・レアメタル回収

中国地区

2020年9月18日
中国地区

広島大学・工学部第三類

 重金属というと人体に有毒、環境汚染のイメージがあると思います。かつての日本でも毒性の認識が無かった頃に公害となった例がありますし、現在でもアジア・アフリカでは重金属中毒の報告があります。悪い面が有名ですが、重金属は電子材料・磁性材料・機能性材料の特性の向上のため、添加剤として欠かせない物質でもあります。重金属と呼ぶより、「レアメタル」と呼んだ方がその希少性、重要性が分かりやすいかもしれません。レアメタルは地殻中の存在量が比較的少なく、精錬コストが高いので、希少(レア)といわれています。現代社会において、ほとんどの製造業でレアメタルは不可欠な素材です。よって使用済み製品を回収して、レアメタルや金・銀・白金をリサイクルする取り組みも行われています。

 固体金属は、融解・精錬して単体に分けることが出来ますが、イオンとして廃液に溶解してしまったレアメタルを単体金属として取り出すには、より多くのエネルギーを必要とするため、ほとんどリサイクルには利用されません。しかし重金属イオンの生体毒性のため、適切に処理されなければなりません。エネルギーの投入は二酸化炭素排出を伴うため、低エネルギープロセスが望ましく、世界中で二酸化炭素排出削減のための技術開発が行われています。

 広島大学工学部第三類生物工学プログラムの海洋生物工学研究室では、微生物が重金属イオンを体内に取り込み、無毒化するために鉱物化する機能(バイオミネラリゼーション)を活用して、常温常圧で廃液中の重金属イオンを鉱物として回収する研究を行っています。

 微生物の重金属イオンに対する挙動を下図の簡単な実験で説明します。
 プラスチックチューブ(滅菌済み)に海底の泥をひとさじと、培養液を入れました。泥サンプル1つに対して、チューブを3本用意し、それぞれに鉛イオン(A), カドミウムイオン(B), セレン酸イオン(C)を1 mmol/Lで加えました。室温で1週間放置後、析出した鉱物の色から、それぞれ図中の反応が生じていると推定されます。泥の中に、硫酸イオンを還元してエネルギーを取り出す(硫酸還元呼吸をする)微生物が含まれています。この呼吸で生じた硫化物イオン (S2-)が2価の金属と出会うとイオン結合して不溶性鉱物が生じます。セレン酸イオンは硫酸イオンと類似しているので、還元されて単体セレン(赤色)を生じています。また、硫化カドミウム(CdS)が大量に作られている④のチューブは、鉛イオンは苦手のようで、黒色沈殿が出来ていません。このように、金属イオンの種類によっても得意不得意は微生物ごとに異なるので、毎回、海にサンプリングに出て、新しい微生物を探しています。

図1 海洋微生物の重金属イオンに対する反応の様子 同一番号のチューブには同一の海洋底泥を加えている。図1 海洋微生物の重金属イオンに対する反応の様子
同一番号のチューブには同一の海洋底泥を加えている。

 さて、回収されたPbSやCdSは固体化合物なので、精錬して再び単体金属にリサイクルすることも可能です。このように、レアメタル資源を廃液から低エネルギーで回収する技術開発が期待できます。また、作られたナノサイズの粒子は機能性材料への応用可能性があります。

 金属テルル (Te)もまた、太陽光パネルなど、機能性材料に使用されています。水に溶解したイオンは亜テルル酸イオン(TeO32-)で猛毒です。大腸菌は数μmol/Lの濃度で死んでしまいますが、私達は亜テルル酸還元細菌を単菌分離し(図2A)、さらに亜テルル酸還元能を大腸菌に付与する遺伝子を発見しました。その遺伝子組換え大腸菌が図2Bです。遺伝子組換え大腸菌は1,000倍の濃度の数mmol/Lで生育可能になりました。

図2 分離した亜テルル酸還元細菌 (A)と遺伝子組換え大腸菌(B)の電子顕微鏡写真 スケールバーは500nm図2 分離した亜テルル酸還元細菌 (A)と遺伝子組換え大腸菌(B)の電子顕微鏡写真
スケールバーは500nm

 このように、細菌の重金属に対する生存戦略を詳細に解析することで、新たな機能が発見できます。生物の反応は低エネルギープロセスなので環境に優しく、環境中の重金属を回収するバイオレメディエーション(生物学的環境修復)とレアメタル資源の持続性・材料合成に貢献するための新規なバイオテクノロジーを開発しています。

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