「ウィスキーが好きだ。」
そう認識したのは20歳の冬でした。お酒を嗜み始めて間もないころで複雑な味わいを理解していたわけではありません。麦芽と水と酵母という限られた原料から全く個性の違う商品ができることや時間をかけることで味が深まる“熟成”という概念に惹かれた為です。
当時、私は生物化学工学を専攻しており、微生物などの生物系の分野から流体力学や熱力学など物理系の分野まで幅広く学んでいました。偶然にも、ウィスキーという新しい趣味は私が大学で学んでいる知識の粋でできており、知的好奇心を激しく刺激しました。講義中は一見ウィスキーとは関係のない理論の話ですが、頭の中ではすべてウィスキーと紐づけて展開されていきました。例えば、酵素反応や微生物の講義ではウィスキー製造工程における糖化や発酵と紐づけて理解し、蒸留棟の設計の課題ではウィスキーの蒸留を念頭に、実際の製造条件に近い形で課題に取り組むといった具合です。小生意気な変わった学生だったと今ならわかりますが、そうやってウィスキーの製造工程に関連する知識が一つ一つ身についていくことが楽しく、能動的に学生生活を満喫しておりました。
私は今、三重県の公設試で醸造微生物分野の研究員を務めており、日本酒・ビール・ワインなどの業界支援をメインで行っております。きっかけは大学時代の経験であることは言うまでもありません。酒造りの工程では、酵母がアルコール発酵をすることでお酒が出来上がりますが、酵母の役割はそれだけではありません。お酒に含まれる“果実様の香り”や“味となる呈味成分”の多くも作り出します。特徴的な酵母からは特徴的な酒質のお酒を造ることが出来ます。そこで、私は三重県独自の酒質を確立することを目標に、新規酵母の開発に励んでおります。今後のお酒のトレンドは三重県で生み出された酵母から生まれるかもしれません。
最後になりますが、身の回りの様々なものに興味を持ってください。思いを巡らせてください。自分の心をつかんで離さない出会いがあるかもしれません。「なんで!?」という疑問と同時に気持ちが高まる瞬間があります。工学系の醍醐味です。皆さんも趣味と仕事の境界がなくなるほど没頭してみませんか?
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