2017年9月29日
中国地区
山口大学 工学部
土木工事って、環境を破壊していると思っていませんか?
それは遠い昔の話です。今の土木工事は、環境を壊さないよう、注意深く考えて実施されています。それどころか、もっと良い環境にするにはどうすればよいか、一生懸命研究しているのです。社会建設工学科の関根教授の研究室では、川や海を中心に、いきものにやさしい土木工事のあり方について研究しています。
さて、いきものはどんな場所が好きなのでしょうか?陸のいきものなら、なんといっても「水」が近くにあることが重要ですが、川や海は水であふれていますね。
いきものを研究している人たちは、「水」の他には、「自分自身のえさがとりやすいか」、「子孫を残すことができるか」、「敵や競争相手はいないか」が大事だと言っています。
でも、この3つの条件を、どうやって土木工事で良くしていくのか、簡単にはわかりませんよね?
魚をよく見ると、流線形をした魚や、背の高い魚など、いろいろな形があることに気づきます。
流線形をした魚は、流れの速いところで背の高い魚より上手に餌をとることができます。背が高い魚は流れが遅いところで流線形をした魚より自在に動けます。こう考えると、流れの速さは「自分自身のえさがとりやすいか」と関係がありそうですね。
同じように、コイは水草に卵をうみつけたり、サケは川底の石の間に卵をうみつけたりします。とすると、「子孫を残すことができるか」と川底の材料や植物の生え方とは深い関係がありそうです。
次に、魚の一番の敵はなんでしょうか?人間?たしかに!人間以外では。。。そう、鳥ですね。人や鳥から身を隠すにはどんな場所がいい?うん、深い場所ですね。「敵や競争相手はいないか」と水の深さには関係がありそうです。
こんなふうに、いきものが好きな場所の生態学的な条件を、機器で測定したり工事で変更したりできる流れの速さや深さといった物理的な条件に置き換えていく研究がまず必要です。
さあ、実験や調査でいきものが好きな物理的条件がわかってきました。では、よい工事・悪い工事はどうやったらわかるのでしょう?工事をしてみればわかるって?!でもそれじゃ手遅れです。実際に工事をする前に、よくなるのか悪くなるのかを知りたいのです。
でももう私たちは、いきものが好きな物理的条件がわかっています。それならば、工事の前後で物理的条件(流れの速さや深さ、川底の様子)がどう変わるかがわかれば、よい工事か悪い工事かがわかりますね!
そのためには、川の流れをコンピュータで計算するのです。工事前の地形は、測量調査をすればわかりますね。工事の設計図があれば、工事後の地形もわかります。工事前後の地形をコンピュータに入れて、同じ量の水をコンピュータの中で流してみれば、工事前後で流れの速さや深さがどのように変わるのかがわかります。これを、いきものが好きな流れの速さや深さの情報と組み合わせると、いきものにとって良い環境になったかどうかがわかるのです。
いきものの好きな環境かどうかを判定する方法の原理を簡単に書いてきましたが、実際は長い道のりでしたよ。いきもののことですから、嫌いな環境でもしばらくすると慣れてきたりして、物理や化学の実験みたいにきれいな結果にならないこともしばしば。やっと正確な式ができた!と思ったら、式が複雑すぎて工事には使ってもらえなかったりね。
でも2017年、身近な川がいろいろな魚にとってすみやすいかどうか、ほんとうに簡単に計算できるソフトができました!自然な川の正確な地形データをつくるのは測量道具がないとちょっと難しいかもしれないけれど、水路のような簡単な地形なら誰でも試してみることができます。今は、詳しい地形データがなくてもよし悪しが判定できる方法を研究中。みんなもいきものが棲みやすい川づくりに挑戦してみよう!
掲載大学 学部 |
山口大学 工学部 | 山口大学 工学部のページへ>> |
私たちが考える未来/地球を救う科学技術の定義 | 現在、環境問題や枯渇資源問題など、さまざまな問題に直面しています。 これまでもわたしたちの生活を身近に支えてきた”工学” が、これから直面する問題を解決するために重要な役割を担っていると考えます。 |