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環境への取り組み

どろどろ、さらさらを科学する
~ 省エネルギー技術から食品開発まで ~

中国地区

2016年1月28日
中国地区

山口大学 工学部

 循環環境工学科の佐伯 隆 教授・貝出 絢 助教の研究室では、どの大学にもあるわけではない『レオロジー工学』という分野に特化した研究を行っており、企業との共同研究も数多く行っています。

レオロジー工学とは...?

 流れるものを『流体』と呼びます。水はもちろんのこと、ジュースやヨーグルト、ケチャップもゆっくりですが流れます。さらに、ハンドクリームや塗料、接着剤やセメントまでも流体に分類されます。このような流体はさらさら流れる水と異なり、べちゃべちゃ、ねとねと、ぽたりっと複雑な流れをします。これをうまく制御することで、塗りやすい塗料、飲みやすい医薬品、書きやすいインクなどを作ることができます。これが私の研究分野であるレオロジー工学です。

(山口大学工学部研究紹介冊子 佐伯教授のページから)

山口大学工学部研究紹介冊子:

http://www.eng.yamaguchi-u.ac.jp/10info/j_researchbook.html

 地球温暖化をはじめとする環境問題は皆さんが思っている以上に深刻な状況にあります。我々は原点に立ち返って、何が便利で何が豊かな社会かを考え直す時期にきているといえるでしょう。環境に対する多くの問題は一筋縄では解決できない性質のものが多いのですが、省エネルギーや高効率化、高機能化という面から少しずつ社会を変えていくことも重要です。そのような取り組みとして、レオロジー工学を核とした企業との共同研究の一部をご紹介します。

どろどろ、さらさらを科学する...

事例1:配管抵抗低減剤の開発・実用化・普及

事例2:廃食油を原料としたディーゼルエンジン燃料(BDF)の実用化

事例3:新規スタティックミキサーの開発

事例4:化粧品開発

事例5:食品開発

事例1:配管抵抗低減剤の開発・実用化・普及

 私たちの社会では、多くの水がポンプで輸送されています。水道や洗浄水をイメージするでしょう。この他、水には熱を運ぶ役割があります。ビルの冷暖房は機械室で夏は冷水、冬は温水を作り、これをポンプでビル内の各部屋に送り、冷風、熱風の熱源となります。大きなビルになると、水を輸送するポンプの消費電力はかなりのものです。山口大学が企業と共同で開発した添加剤(配管抵抗低減剤)を水に加えると、ポンプの消費エネルギーを大幅に削減することができます。

 ビーカーに入れた水をかき混ぜると、写真1のように大きな渦ができます。しかし、配管抵抗低減剤を添加すると、写真2のように渦は消失します。渦ができるということは、ポンプのエネルギーが水の輸送に効率よく使われず、乱れに消費されてしまうことを意味します。すなわち、配管抵抗低減剤は水を乱れにくい流体に変身させる働きがあります。

写真1
写真2
商品化した配管抵抗低減剤商品化した配管抵抗低減剤

 この原理を実際の空調設備に応用したところ、20%から50%の電力を削減できることがわかりました。これまで、国内の200件以上の施設(高層ビル、ホテル、病院、テーマパーク、空港など)に山口大学の技術が適用されています。企業と共同で行った抵抗低減剤の開発と普及に対し、環境大臣賞の他、4件の受賞を受けています。

 現在もこの技術の普及を進めるとともに、抵抗低減効果の発現メカニズムに関する研究も進めています。

抵抗低減効果評価装置抵抗低減効果評価装置
流れの解析実験流れの解析実験

事例2:廃食油を原料としたディーゼルエンジン燃料(BDF)の実用化

 菜種なたね油でトラックが走る! 石油や天然ガスと異なり、バイオディーゼル燃料(Bio Diesel Fuel; BDF)は植物油を原料とするため、地球温暖化対策の一つとして注目されました。下図に示すように、回収された使用済み油からBDFを製造し、ディーゼル車の燃料として使用します。排気ガスとして二酸化炭素が排出されますが、植物は光合成によって二酸化炭素を吸収して成長し、食油となります。ディーゼル車の燃料として軽油を使う場合は化石燃料を使用して大気中の二酸化炭素を増やしてしまうことになりますが、BDFを製造するこのサイクルは二酸化炭素を増やすことがありません。これをカーボンニュートラルといいます。さらに廃食油を原料とすることは廃棄物を減らすことになるので、多くの自治体がこの技術に興味を示しました。

 ここで、廃食油がそのままディーセルエンジンの燃料になればいいのですが、そのままではどろどろすぎるので、下に示すメチルエステル交換反応で改質します。

 食油の主成分(トリグリセリド)にメタノール(CH3OH)を加え、触媒として水酸化ナトリウム(NaOH)を加えて60~70℃に加熱します。この反応によって、脂肪酸メチルエステルとグリセリンが得られ、副生物であるグリセリンを取り除くとさらさらしたBDFになります。しかし、食品工場や家庭から集められた廃食油はその成分が一定ではなく、均一なBDFの製品を作るのがなかなか難しいことがわかりました。

 これに対し、山口大学工学部がある山口県宇部市は「地球温暖化防止のためのエコパーク化構想」を打ち立て、市内にある常盤公園のパッカー車(ごみ収集車)や市営バスに廃食油を原料としたBDFを使用しています。山口大学ではこのプロジェクトを支えるため、廃食油とBDF成分の分析、およびBDFの製造装置や製造方法の改良を行っています。

BDFの分析装置

事例3:新規スタティックミキサーの開発

 配管の途中に取り付けるだけで、配管を流れる混ざりにくい流体を均一に混合できるスタティックミキサーを開発するとともに、混合特性の評価方法の検討をしています。

特殊な形状のエレメントを重ねたスタティックミキサー
企業との共同研究で、近日、商品化される。

事例4:化粧品開発

 化粧品や生理用品の開発は、レオロジー工学と密接に関係しています。塗りやすいクリーム、れない化粧品、塗り心地のいい製品の開発に役立つ研究を行っています。

市販のクレンジングオイル(化粧落とし)市販のクレンジングオイル
(化粧落とし)
共同研究で開発した添加剤により垂れなくなった共同研究で開発した添加剤により
垂れなくなった

事例5:食品開発

 食品開発は、①地産地消(地元で作ったものを地元で消費する)、②ヘルシー、③誤嚥(のどに詰まらせる)防止、が最前線のテーマです。山口大学ではこんにゃくを使った食品を企業と共同で開発しています。流れるこんにゃくや乾燥こんにゃくなど、色々なアイディアで実際に作製し、その食感を評価装置と比較しながら実験を進めています。人の美味しいをレオロジーと融合した分野をサイコレオロジーといい、こんにゃくを対象としたこの分野の発展的な研究を行っています。


 以上のように、どろどろ、さらさらを科学することは、様々な分野で役立っています。
皆さんも山口大学工学部で一緒に学びませんか?

※このページに含まれる情報は、掲載時点のものになります。

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