2017年8月18日
信越・北陸地区
富山大学 工学部
平澤 良男 教授
氷蓄熱技術はエネルギー有効利用の一つの手段として重要である。そのコンセプトは図1に示すように電力需要の少ない夜間に冷凍機を稼働させて氷を生成させておき、昼間にその冷熱(融解熱)を利用して空調に利用することで電力の最大ピークをカットすることで、発電量を抑えることである。
潜熱蓄熱は、使用される相変化材料(水、氷など)の安全性の高さ、費用、物理的性質の安定性など重要な課題であることから、多数の研究が行われている。蓄熱装置では水に限らずその蓄熱材料の熱物性が重要なことは明白であり、特に凝固過程(蓄熱過程)においては材料の熱伝導率が小さい材料が多く、伝熱面形状にもよるが凝固層の発達による熱抵抗の増大が性能向上の妨げになることが多い。混合材料によって蓄熱材料の有効熱伝導率を制御する事は、相変化材料の相変化特性を制御する有効な手段のひとつと思われるが、混合材料の伝熱特性に関する研究はその有効熱伝導率に関するものが多く、相変化過程を見当した研究はあまり多くない。また、有効熱伝導率の推測も困難であることも良く知られている通りである。
混合物の熱伝導率を操作するために、伝熱促進体としてコイル状の銅線を用いて実験・計算を行った。実験装置の概略を図2に、水(氷)と促進体の形状を表1に示した。また、数値計算で伝熱促進体を含んだ混合材料の相変化過程を求めるための計算モデルを提案した。このモデルでは伝熱促進体の形状を考慮するために、促進体の平均寸法の他に促進体表面と相変化物質の熱交換も考慮している。図3に促進体体積率3.61%の場合の氷生成高さと時間の関係を示した。ここでも、有効熱伝導率を用いた場合は実際よりも小さな相変化量を示していることから、促進体周囲の氷生成が大きな影響を持つ事がわかる。この促進体の効果は、図4に示すように融解過程においても顕著である。一般に、融解過程においては温度変化に伴う自然対流の影響が大きいと思われがちだが、水の場合には液相と促進体の熱伝導率比は固相と促進体の比率の4倍程度になるため、相変化材料の見かけの物性も大きく影響する。
有効熱伝導率の変化による相変化過程に関する考察から促進体の形状や方向が大きな影響を持つ事がわかったので、伝熱面形状を変えて凝固・融解実験を行った。まず、図5に示すようなストリップ状のフィン(厚さ1mmの銅板を図のように切り抜いて外径19mmの銅管にハンダ付けした。実験装置は内部の観察が容易なように、アクリル円筒内径70mm、内径110mmの2重構造とした。図6に示すように、裸管の場合、固層の生成速度は凝固開始後40分以降減少し、約170minで凝固が終了する。フィン付き管では最も早いもので80minほどで凝固が終了しており、約2倍の促進効果が得られた。図7に、融解過程における結果を示した。裸管の場合、凝固過程より相変化終了は遅く、約230minで終了する。フィン付き管の場合、フィンによる促進効果は凝固過程より顕著に現れ、最も早いもので約70minで終了する。これは氷よりも水の熱伝導率が小さいためフィンの伝熱促進が顕著になること、さらにフィン周りの自然対流の影響もあるものと考えている。
図8にスパインフィン付き管の概観と外観写真を示した。上述のストリップフィンよりも作製が容易な構造が特徴である。幅25mm、厚さ0.5mmのアルミ板の両側に長さ11.5mmの切り込みを入れてコの字型に折り曲げて、外径9.5mmの銅管に巻き付けたものである。巻き付けるピッチを変えることで体積率を1〜4%と変えた。図9に凝固過程の実験結果を示す。図のVsは凝固率を示す。凝固の場合、一般には相変化過程は熱伝導に支配されるため、図に示されるようにフィン体積率が0%のとき、凝固開始直後は凝固は比較的迅速であるが、徐々に凝固速度が遅くなる。しかし、フィンの体積率が 大きくなるに連れて凝固速度の低下の度合いは少なくなる。また、Vd=2% 以上では有意差が認められないが、これは Vd の増加によってフィンのピッチが小さくなるために、隣接するフィンで生成された氷層が接触して氷−水界面面積が減少するからである。
図10に、融解実験の結果を示した。一般に、融解過程においては液相内に自然対流が発生するため、比較的速く相変化することが知られているが、Vd=2%以下では、凝固過程よりも相変化速度が遅い。これは伝熱管の下方では密度の小さな液相が伝熱面付近に存在するため対流の効果が少なく、熱伝導の小さな液相内の熱伝導が主であることや、容器の寸法が小さいことも影響しているものと考えられる。凝固過程と異なり、Vd=2%以上でも促進効果は大きい。融解過程では融解領域の合体が自然対流の促進につながるからであろう。
特殊な伝熱面材質としてポリプロピレン製の樹脂細管(外径4.3mm、内径3.1mm)を採用した。細管マットはポリプロピレン製で、種々の寸法を持つ細管が一定のピッチで分配管に溶着された長さ1mのものを二つ折にしたユニット(図11)を7セット(細管98本)組み合わせた。樹脂製の伝熱管では、熱伝達性能は金属管等に比べ劣るが、氷生成時の体積増加による伝熱管の 破壊が回避出来ること、また、生成される氷層の厚さが比較的均一であることが特徴である。図12に凝固過程でのブライン入口出口の温度上昇と時間の関係を示す。温度変化が安定した領域(安定した冷熱蓄熱領域)が凝固開始後から6時間くらいまで続くことがわかる。
図13に融解過程でのブライン入口出口温度降下と時間の関係を示す。温度差が安定している領域は安定した冷熱取出し速度となっていることを示している。この時間はどの流量においても3時間程度であった。
相変化材料の熱伝導率による固液相変化への影響を検討するとともに、伝熱面形状、伝熱面材質による相変化特性への影響について紹介した。
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