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環境への取り組み

旧産業地域の緑化による地域の森づくりに関する研究

関西地区

2020年2月21日
関西地区

和歌山大学 システム工学部

 産業革命発祥の地でもある英国では、炭鉱跡地や工場跡地などの旧産業地域において、地域全体に広がるコミュニティフォレストの活動により緑化が進められています。その過程においては、植林のみでなく、緑化後も継続的な維持管理を行うことも必要となるため、地域の様々な団体による参加や協働により既存の緑地や水辺などのすでに地域にある自然環境とのつながりをつくるグリーンインフラを形成することが重要になってきています。本研究では、リバプール市を中心とした7つの地方自治体に広がる地域の森づくりに取り組む英国北西部にあるマージーフォレストを対象に、多様な団体との協働によるパートナーシップのあり方や環境再生の過程について明らかにすることを目的としています。

写真―1「旧産業地域を緑化した事例」写真―1「旧産業地域を緑化した事例」

水の酸素・水素安定同位体比を使った水の起源推定

 水の酸素・水素の安定同位体比とは、水を構成している酸素では18O/16Oの比、水素では2H/1Hの比で、この値は地域によって、大きく変化する。これは、水が蒸発する際に、原子量の大きく18O、2Hは原子量の小さい16O、1Hよりも蒸発しにくく、したがって、海水の18O/16Oの比、2H/1Hの比は降水よりも高い。また、降水の18O/16Oの比、2H/1Hの比は、原子量が大きいほど凝結しやすいので、降り初めに比べて、降る終わりの方が小さくなる。その結果、降水の18O/16Oの比、2H/1Hの比は、赤道付近が大きく、極付近が小さくなる傾向がある。したがって、水の18O/16Oの比、2H/1Hの比から、南極の氷か水道水で作った氷かを区別することができる。

 2004年に実際に黄河で測定した例を示す。図―1は黄河の河口から上流3000km ,標高3000mの地点までの河川水の水素同位体比の変化を示した。数字が大きくなるほど原子量の大きい2Hが大きいことを示しているので、下流ほど原子量の大きい18O、2Hが多いことが判る。これは、内陸よりも海岸付近の降水がより18O、2Hが多いことを示している。

 この手法を使って、和歌山市を東西に通っている中央構造線に沿って分布する温泉の水の由来を推定した結果を、図-2に示す。図中の井戸は紀の川沿いの深さ数十m以下の浅井戸で、これらの酸素、水素同位体比は、天水線(meteoric line)と呼ばれる線上にある。世界的に降水の酸素、水素の同位体比は、この線上にあるので、浅井戸の水は紀の川沿いの降水が起源であることが判る。一方、紀の川沿いの温泉は(深さ100m以上、図中の数字深さm)、浅井戸に比べて黄色のゾーンと天水線の間にあることが判る。特に、深度が大きくなるとより黄色のゾーンに近づくことが判る。黄色のゾーンは有馬型深部熱水と呼ばれるもので、これは、地下深部で堆積岩位含まれていた水が変成過程で脱水したものと考えらえている。

 海外の研究事例では、写真―2に示すように周囲5㎞で深さ70mほどの豪州、南オーストラリア州、ブルーレイク湖での地下水の出入りについて調べた。図―3の豪州の冬の10月の深さごとの酸素の同位体比は、一定で水が上下方向に混ざったことが判る。しかしながら、その後、深さ40m付近の同位体比が低くなり、表面の同位体比は高くなっている。これは、表面は水が蒸発することで、原子量小さい16Oが選択的に蒸発したためと考えられる。一方、40m付近の低い同位体比は地下水の供給と考えらえる。供給後に表面から蒸発によって、同位体比が大きくなるので、入ってくる地下水の同位体比は低いものと考えられる。したがって、この結果から、地下水は深さ40m付近から入っていることが判る。5地点で採水しており、湖水の中心、湖の東、西、南、北の端で、すべて同じ挙動を示していることから全方位から地下水が入っていることも判る。この湖水は飲料水供給のために常にポンプアップしており、周囲よりも水位が周辺よりも低く、全方位から入ったことが推定される。

図―1 黄河の水素同位体比図―1 黄河の水素同位体比
図―2 紀の川流域の井戸水と温泉水の酸素・水素同位体比図―2 紀の川流域の井戸水と温泉水の酸素・水素同位体比
図―3 ブルーレイクの深さと酸素同位体比の関係図―3 ブルーレイクの深さと酸素同位体比の関係
写真―2 ブルーレイク写真―2 ブルーレイク

植物プランクトンを使った水環境の評価

 水質変化に応じて、河川、湖沼、海の植物プランクトンの種構成は大きく変化する。そこで、主に、河川の水質変化、特に、ダム建設の影響や上流から下流への農業用水、生活排水による影響を植物プランクトンの種構成の変化から評価している。写真-3は、紀の川最上流部でダムの上流地点の植物プランクトンの代表的な珪藻を示しています。図―4は最上流部でのプランクとの種構成を示しており、珪藻が主な種であり、藍藻、緑藻、渦鞭毛層などの割合が低いことが判ります。同じ珪藻であっても、主の割合は変化しており、冬場はヒメマル珪藻族が多く、他の時期にクチビル珪藻族、タラシオシラ珪藻族が増えています。このような変化を周期的に繰り返しています。一方、図―5の紀の川最下流(上流から100㎞)では、珪藻の割合が小さくなり、藍藻や緑藻の割合が大きくなります。特に、最下流部の紀の川大堰(ここから下流は汽水から海水)では、圧倒的に藍藻が多くなっていることが判ります。このように、植物プランクトン種構成は流下することによって大きく変化していることが判ります。この変化は様々な要因によって変化しており、その1つとして、水質変化があります。特に、藍藻は、温泉水(高温)、鉱山排水(重金属が多い)などでみられ、特殊環境でよく観察されます。もともとは、最初に現れた藻類で、20億年以上前の化石も存在します。また、藍藻族は、鉱山排水や温泉の源泉の近くでも観察されます。

写真―3 紀の川最上流部の珪藻写真―3 紀の川最上流部の珪藻
図―4 紀の川最上流部(大迫、大滝ダムの上流)の植物プランクとの構成種の季節変化図―4 紀の川最上流部(大迫、大滝ダムの上流)の植物プランクとの構成種の季節変化
図―5 紀の川最下流部(船戸、紀の川大堰)での植物プランクとの構成種の季節変化図―5 紀の川最下流部(船戸、紀の川大堰)での植物プランクとの構成種の季節変化

生物中の重金属濃度からの環境評価

 河川水や海水の重金属濃度は一般的に低く、微量元素の測定は難しい。また、生物への重金属の影響は水からだけでなく土砂に含まれる微粒子(鉱物粒子)からも供給されることが推定される。したがって、生物濃縮によって濃くなり、水以外のプロセス(微粒子の体内への取り込み、微粒子からの溶出)によって、蓄積される生物体の重金属濃度を水以外の金属汚染の指標として研究している。図-6は、紀伊半島で採取された海藻のストロンチウム濃度である。ストロンチウムは紅藻、緑藻に比べて褐藻に多く含まれることが判る。身近なところでは、テングサ(寒天の原料)やスサビ海苔(おにぎりのノリ)などの紅藻、お好み焼きに使うアオノリ(緑藻)に比べて、ヒジキやワカメなどの褐藻のストロンチウム濃度は10倍ほど高い特徴がある。図―7に示すようにヒ素も同様の傾向があり、褐藻に高く(数百ppm)、緑藻、紅藻は低い。

 図―8は岡山県の吉井川流域(和意谷)と他の地域の水生昆虫の銅濃度を示したもので、和意谷鉱山の水生昆虫は種類に関係なく、他の地域よりも10倍ほど高い。しかしながら、バラツキが大きいが、図―9に示すように体重と濃度の関係を見ると、成長(体重)するにつれて濃度が下がる傾向が見られる。これは、鉱山地帯でも非鉱山地帯でも共通である。したがって、濃度のバラツキは、種ごとに起こるのではなく、体重の影響が大きいことが判る。

図―6 紀伊半島の海藻中のストロンチウム濃度図―6 紀伊半島の海藻中のストロンチウム濃度
図―7 紀伊半島の海藻中のヒ素濃度図―7 紀伊半島の海藻中のヒ素濃度
図―8 鉱山地帯と非鉱山地帯の水生昆虫の銅濃度図―8 鉱山地帯と非鉱山地帯の水生昆虫の銅濃度
図―9 鉱山地帯と非鉱山地帯の水生昆虫の銅濃度と体重の関係図―9 鉱山地帯と非鉱山地帯の水生昆虫の銅濃度と体重の関係
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