2024年1月12日
関東地区
電気通信大学 情報理工学域・Ⅰ類(情報系)
教授 横川慎二
2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)という高い目標を受け、再生可能エネルギーを主力電源化するための研究開発が産学官により進められています。そこには、創り出すエネルギーの種類、量、時間変動特性などが様々に異なるエネルギーをいかに統合し、社会の駆動力として効果的に活用するかという大きな課題があります。我々の研究グループでは、それらを解決するソリューションを、学内外と連携して研究開発しています。
その課題が解決された社会像として、事業組織が大小発電や需要を集中コントロールする従来のスマートグリッドを中心とする社会から、個人や地域の地産地消を単位とするインターネット型エネルギー社会構造への転換が進むと我々は考えています(図1)。ユーザー自らの手で形成された小規模自立分散グリッドのネットワークとリソースシェアにより、既存の基幹系統に匹敵するインフラを形成するという分散アプローチです。自ら構築した小規模自立分散グリッドをネットワーク接続することにより、必要とするエネルギーが共助により入手可能となり、末端のシステムやデバイスがユーザーの手で構築、再構築されることによってシステム全体が新陳代謝していくでしょう。
エネルギーシステムという社会基盤を新しい形に転換していくには、個人や地域の自主的な参加と貢献を可能にする仕組みや、プロトコルが重要な位置づけとなります。かつて通信事業の主役であった電信電話事業がインターネット情報通信網にその座を譲ったのは、通信事業者に限らず、端末事業者、サービス事業者、加えてユーザー本人が主体的に情報通信網の構築に参入できたことが大きく寄与しています。情報の創出や発信を可能とするオープンなプロトコルが整備されることにより、インターネットは情報通信の枠を超えて、様々なイノベーションの基盤となり得ました。同様の変革が、小規模自立分散グリッドのネットワーキング、すなわちインターネット型エネルギー社会にも訪れると確信しています。
一方で、この変革を支えるレギュレーションには、個人と社会の功利を調整し、社会的な合意を得る仕組みを実装しなければなりません。個人情報や知的財産と同様に、小規模の再生可能エネルギーには、個人の生産物としての個人資産の局面と、社会功利の動力源としての局面の二面性があります。どちらが重んじられるかは、個人および社会の置かれる状況によって大きく異なるため、倫理性の高いレギュレーションが必要不可欠です。
このようなインターネット型エネルギー社会構造は、インフラが未整備なグローバルサウスが急速な発展の主たる舞台の一つとなると予想されます。2050 年カーボンニュートラルを目指す我が国は、自らも変革の実現に努めると共にそれらの国々との共創を推し進めることによって、我が国の産業競争力を確保することができるでしょう。
ここに挙げた構想は日本学術会議「未来の学術振興構想」の一つに採択され(参考文献[1])、私達はその実現に向けた研究を、他大学や企業、そして地方自治体との共同研究を通じて推進しています。その一つの取組みとして、軽量で、あらゆる方向からの光を発電に使うことが出来る円筒形太陽電池を用いて、建物の壁や窓部で創った電力を蓄電池にためて活用する実証実験を、地方自治体と共同で実施しています(参考文献[2、3])。
円筒形太陽電池は、細長い透明管に太陽電池の発電シートを丸めて挿入、封止したもので、蛍光灯のような形が特徴です(図2)。これを複数並べてすだれ状の太陽電池モジュールにすることで、風圧を受けにくく、日よけにもなるという特性を持っています(図3)。この太陽電池モジュールと蓄電池を組み合わせ、ICT(Information and Communication Technology)を用いて創電、蓄電、そして電力消費の様子をモニタリング出来るような可搬システムを構築しました(図4)。このシステムで創った電力を、住宅街で開催するeスポーツイベントの電源として活用する実証実験も行っています(参考文献[2])。このシステムを用いることにより、再生可能エネルギーを場所を選ばず便利に利用することが出来ます。そのため、平時だけでなく、災害時に移動できる非常用電源としても活用可能です。今後は建物の壁面に大規模に円筒形太陽電池を設置した実証実験を行い、空き地の少ない都市部における再生可能エネルギー活用の実証実験を行う予定です(参考文献[3])。これらの実証を通じて、インターネット型エネルギー社会を支える再生可能エネルギーの活用技術(参考文献[4]など)を確立してゆきたいと考えています。
参考文献
掲載大学 学部 |
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