白神山地およびその周辺の森林生態系における炭素収支モニタリング |
森林内の樹木は光合成により温室効果ガスである二酸化炭素を吸収していますが、生態系の呼吸に加え、枯死した樹木や落ち葉は土壌表層で微生物により分解されて二酸化炭素が放出されます。
間ばつなど適切に管理されたスギ林のような人工林は、生長が著しく二酸化炭素の吸収源(シンク)と考えられていますが、白神山地のブナ林のような老齢な天然林は、生長と枯死・分解がつり合いカーボンニュートラルと考えられてきました。しかし、最近では老齢林もカーボンシンクである観測例も見られ始めています。
気象観測タワー 地上高34m
(左)夏季(右)秋季
世界最大のブナ原生林(保護地域約17,000ha)が残されていることから、白神山地は世界自然遺産に登録されています。また、ブナは大量の落葉・落枝があるため、土壌がスポンジの役割を果たし、貯水・保水機能があるといわれており、地域の気候緩和にも役立っています。
白神山地のブナ林は、寒冷で積雪が多いため他の樹種が入り込みにくい環境にありますが、気候の温暖化が進むとブナの生育に適した寒冷で多雪な環境が保てなくなり、ブナ林が消失してしまうことが危惧(きぐ)されています。
そこで、我々は白神山地の気温・降水量・積雪量などの気象データに加え、老齢ブナ林における熱・水・二酸化炭素収支の長期的モニタリングを開始しました。
ブナ林と大気の間でやりとりされる熱・水・二酸化炭素を測るためには、細かな空気の流れと温度・湿度・二酸化炭素濃度の変動を測る必要があるため、特殊な風速計などの観測機材を使用しています。
8月の良く晴れた3日間の測定データを下のグラフに示します。植生地では、地表面に降り注ぐ太陽放射による熱(日射量)は、大気を直接加熱する顕熱に比べ蒸発散の潜熱(せんねつ)(気化熱のこと)に多く消費されるため、気温の上昇が抑制(よくせい)されます。また、日中の光合成による二酸化炭素の吸収量が、夜間の呼吸による放出量に比べて多く、正味で植生が二酸化炭素を吸収していることがわかります。
※この研究は京都大学との共同研究で、天然林と人工林の比較が行われています。
森林生態系全体の二酸化炭素吸収量を知るうえでは、植生の光合成による吸収量の他に呼吸による放出量を正確に知る必要があります。土壌からの放出量(以下土壌呼吸)は呼吸による放出量の大部分を占めることがわかっています。また、地温が上昇すると土壌内の微生物の分解活動などが活発になるため、土壌呼吸量は地温の上昇に伴い急激に増加することもわかっています。そこで、気候の温暖化に伴う土壌呼吸の増加量を推定するために、擬似温暖化実験を行っています。
※この研究は国立環境研究所との共同研究で、 全国の観測点との比較が行われます。
光合成による二酸化炭素の吸収量や土壌呼吸による放出量を生物季節ごとに気温、日射量、湿度(降水量) の関数で表し、年間で積算し、白神山地ブナ林の炭素収支を明らかにすることを目指しています。また、可能な限り観測を継続し、気候変動による影響を調べます。
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