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環境への取り組み

 

瀬戸内海の新たな水環境問題の解決に向けた研究
~公害・富栄養化の時代から貧栄養の時代への変化~

 
四国地区 2012年11月7日
四国地区
香川大学 工学部

香川県

香川大学工学部では、個性豊かな人間とその生活を取り巻く自然に焦点をあて、人間と自然が調和共生できる科学技術の創造により、協調と調和の21世紀を切り拓く新しい工学の教育研究を行っています。本学部が重視する教育研究領域は次の4つがあり、いずれの学科も環境に関する研究や教育を行っています。

  • 自然環境の変化や災害から人間を守り、安全を確保し、不安のない快適な生活を支援する工学
  • 高度のテクノロジーを伴いながら、すべての人にわかりやすく、人それぞれの個性が尊重される工学
  • 人間の持つ機能を最大限生かし、その機能を支援する人間中心の工学
  • 製品の生産・使用・廃棄のすべてのサイクルにおいて環境に優しい工学

ここでは、安全システム建設工学科が行っている「瀬戸内海の新たな水環境問題の解決に向けた研究」について詳しく紹介します。

●瀬戸内海ってどんなところ?

香川大学のすぐそばにある瀬戸内海は、大小さまざまな島がおりなす美しい景観が魅力的で、穏やかな気候や灘・海峡といった複雑な地形により生じる流れによって、古くから漁業や養殖業が営まれてきました。

瀬戸内海の風景。高松港からみた女木島と男木島。鬼ヶ島伝説がある。

瀬戸内海の風景。
高松港からみた女木島と男木島。
鬼ヶ島伝説がある。




●瀬戸内海で何が起きているの?

ノリの色の変化。色落ちしたノリは値段が安くなってしまいます。

ノリの色の変化。色落ちしたノリは
値段が安くなってしまいます。

1960年代からの高度経済成長期に瀬戸内海の水質は悪化しましたが、さまざまな法律による規制によって、河川や海の水質は改善してきました。しかし、近年、瀬戸内海では栄養塩の濃度が減少し、「栄養塩異変」とよばれる新たな水環境問題が発生しています。例えば、ノリの色落ちや牡蠣(カキ)の質の低下など、水産業が深刻な状態になっています。でも、その原因は充分に分かっていません。

●何に着目しているの?

この研究では、陸から発生する窒素(N)やリン(P)といった栄養塩に着目し、瀬戸内海の播磨灘における栄養塩濃度の減少の原因究明と植物プランクトンの生物量に与える影響を明らかするために、研究を行っています。陸では、水田の減少や建物用地の増加などの土地利用の変化、産業の変化などさまざまな人間活動によって栄養塩や有機物が発生していて、それらは河川や下水道を通じて海へと流入しています。そのため、河川の水質変化は海の水質変化と強い関係があるといえます。

陸からの汚濁物・栄養物の海域への流入のイメージ

陸からの汚濁物・栄養物の
海域への流入のイメージ




●窒素やリンなどの栄養塩、植物プランクトンとは?

栄養塩とは、生物が生活するために必要な塩類のこと。水環境で使われる場合は、植物プランクトンによる一次生産に利用される栄養素です。具体的には、窒素(N)、リン(P)、ケイ素(Si)があります。栄養塩が多く存在する状態を富栄養化といい、海の赤潮やダム・ため池などのアオコの原因となっています。河川や海に含まれる栄養塩は植物プランクトンによる光合成によって無機物から有機物が生成されて、さらに動物プランクトン、小魚、大型魚へとつながっています。これを食物連鎖といいます。つまり、植物プランクトンは水環境を考える上でとても重要な存在です。




●森と川と海の関係は?

山に降った雨は、河川を通じて海に流入します。生活や産業、水田や森林からはさまざまな物質が河川へと供給され、最終的に海へと流入します。そのため、森が荒れると河川や海に土砂が流れ込んで濁りを発生させます。また、川が汚れると海も汚れます。このように、森、川、海を別々に考えるのではなく、つながった連続体として考えることが、近年、重要になっています。

研究対象の播磨灘と注ぎ込む河川(googleマップを一部利用)

研究対象の播磨灘と注ぎ込む河川
(googleマップを一部利用)




●どのようなことをやっているの?

川から運ばれる栄養塩の濃度を調べるために、月に一回、河川に行って、水を採水しています。水はポリ容器に入れて、水質が変化しないようにすぐに冷やします。採水した水はろ過して、大学や共同研究機関の実験室で、窒素やリン、植物プランクトン量(クロロフィルa)などを分析します。

香川県を流れる土器川河川の水質調査の様子
香川県を流れる土器川
兵庫県を流れる加古川河川の水質調査の様子
兵庫県を流れる加古川
兵庫県を流れる加古川河川の水質分析。たくさんの河川水を分析装置を使って分析します。

また、森林や水田、建物用地などの土地利用について、長期的な変化を数値情報やコンピュータを使って表示して、人間や社会の活動の変化を調べて、河川や海の水質変化との関係を調べています。例えば、水田が減少することで窒素の発生量が減少するといわれています。

陸からの汚濁物・栄養物の海域への流入のイメージ

桃色が建物用地を表しています。
30年間で、大きく増加する様子が分かります。




●研究の最終ゴールは?

瀬戸内海では、1970年代以降に瀬戸内法や総量規制といったさまざまな法律が施行されて、水環境の改善が進みました。一方、2000年になってから、海の栄養が減って、魚やノリなどの漁獲量が減少するといった新たな環境問題が生じています。そのため、環境省や水産庁では、施策の方向転換について議論を始めています。しかし、まだまだ科学的な環境データが不足しているのが実情です。この研究では、人だけでなく、生物にとっても棲みやすい自然環境をどのようにして作り、守ることができるのか、その答えを見つけるために、今後も研究を進めていく予定です。自然環境の変化の原因はすぐに答えが見るかるものではありません。高校生のみなさんも、新たな水環境問題の未知の答えを探すために、香川大学工学部に入って学んで、是非一緒に研究を進めていきましょう。

香川大学工学部では、この他にも太陽エネルギー利用技術の開発、アスベストの化学的分解処理技術、リモートセンシングデータを用いた自然環境の保全・防災に関する研究など、環境に関するさまざまな研究を行っています。
詳しくは香川大学工学部のウェブサイト(環境に対する教育研究のページ)をご覧ください。

http://www.kagawa-u.ac.jp/kagawa-u_eng/education_research/



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