大学入学前、理学と工学の違いを私は調べた。理学は真理を探求し、工学は理学を応用して社会の役に立つことを目指すという趣旨のことが何に書いてあった記憶がある。この「役に立つ」ことは素晴らしいが厄介で、受験生のみならず、日本社会のあらゆるところで誤解を引き起こしているように思う。大学院の博士後期課程修了まで、私もすぐに「役に立つ」ことを盲信していた。ポスドク時代の留学先で大量の英語論文を読む中で、自分が心底面白い(=知的興奮を覚える)いくつかの論文やその著者に出会った。彼らは、もっと自由に、心の赴くままに思考・議論し、新しい発想や考え方を提案し、革新的研究を展開していた。彼らの研究は深遠で、「役に立つ」までの時間が長いのだ。私はそんな論文や発表に感嘆し、鳥肌を覚えた。これが私の研究者としての出発点であり、今も研究を楽しめている原体験である。私は今、いずれ「役に立つ」日が来ることを楽しみに研究している。
これから大学生になる皆さんには是非「没頭」できる何かを見つけて欲しいとは思うが、それは簡単ではない。「やりたいことがわからない」と言う学生は多いが、それは当然だと思う。一定の時間を投入して関心を持ち続けなければ、何かを心底面白いと思える瞬間は来ないだろう。このため、関心があることは、片っ端からやってみて欲しい。その中から、関心を持ち続けられることに出会えたら、是非長く続けてみて欲しい。そうすると、それまで経験してきた自分の想像を越える「何か」に出会い、感嘆し、心底面白いと感じられる瞬間が来ると思う。その「何か」は、あなたにとって本物である。あなたを魅了し続け、うまく行かない時が来てもあなたを鼓舞し続ける。そういう「何か」がある人は、幸せであり、本当に強い。どんなに優秀で経験があっても、この「何か」がない人は、ある人には敵わない。あなたがこの「何か」と出会えるのは卒業後の仕事の中にあるのかもしれない。私が「何か」を見つけたのは30歳前後だった。
さて、「何か」と出会えたらどうするか。当然、前進あるのみである。若いエネルギーを爆発させて、古い世代や慣習を蹴散らして、社会を変革して欲しい。それこそが社会の「役に立つ」イノベーションであり、工学の本懐である。「何か」を見つけたあなたが人生を振り返った時、工学教育が役立っていたと思ってもらえると嬉しい。
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